田村隆一詩集(思潮社)
田村隆一という詩人がいた。
詩というのは至高の表現形態の一つである。
私は自分をどこか散文的な人間だと思っていて、詩を、縁遠いものだと思っていた。
私が田村の詩の一節に出会ったのは高校生の頃だ。
『ウイスキーを水でわるように
言葉を意味でわるわけにはいかない』
「言葉のない世界」田村隆一詩集より抜粋
ウイスキーグラスの中で氷がカタンと鳴る音すら聞こえそうだ。
上京して間もない頃、私は田村の詩集を買うために、神保町の古書店街を歩き廻り、「田村隆一詩集」と邂逅を果たす事ができた。
私の読書人生の中の僥倖の一つだ。
今でも手許にあるこの詩集を見ると、詩というものが、表現者にとって、きわめて前衛的であった時代に想いを馳せる。
革新や前衛というものが、今ひとつ精彩を欠いている現代において、田村隆一という詩人がいたという事実は、少なからず私の気分を明るくさせる。
田村隆一の詩を私がここで紹介し、解題することは叶わない。
詩の可能性に触れてみたいという方は是非、「田村隆一詩集」を手に取って頂きたい。
初夏に吹き抜ける涼風のように、爽やかで、瑞々しい言葉と出会うことができるだろう。
田村隆一の詩は、太陽の如く、燦然と、輝き続けている。
#読書の秋2022