フィギュアスケートの音楽に関する紛争の顛末を探る
2022年北京オリンピックのフィギュアスケートペア米国代表のAlexa KnierimさんとBrandon Franzierさんは、米国チームで銀メダルを獲得しました。同ペアが演技の際に利用した「House of the Rising Sun」という楽曲について、2022年2月に、当該楽曲の権利者が著作権侵害で訴訟を提起した、というニュースがありました。
私もよくフィギュアスケートを見ますので、当時このニュースに接していましたが、ニュースを見る限りで、これはどのような問題だったのだろう?と気になっておりましたので、もう少し深掘りをしてみていきたいと思います。
訴訟の被告は、Comcast, NBC(放送局), Peacock(NBCのストリーミング会社)、USA Networkに、選手のAlexaさんとBrandonさん、US Figure Skating協会などでした。
連邦地方裁判所(Central District of California, Southern District)に出された訴状を確認すると、差し止めの理由は、House of the Rising SunのMusical master recordingの著作権、つまり原盤の著作権に基づく差し止めを求めていました。これは、おそらく同楽曲のPerforming rights(演奏権)自体はPROs(音楽著作権管理団体)に委託されていることから、原盤の権利を元に訴訟を提起したものと考えられます。
なお、訴訟の顛末ですが、どうやら両者の訴訟は、2022年7月に和解により解決した模様です(Justiaサイト)。どのような内容なのかはわかりませんが、解決したようでなによりでした。
ちなみに、日本においても、同様の音楽著作権の問題が発生し、私も業務で取り扱ったことがあります。日本では、JASRACにおける権利処理が可能な楽曲も多いかとは思いますが、音楽著作権関係では、外国楽曲の利用が多いと思いますので、特にシンクロ権の権利処理に注意しなければならないことも多いかと思います。また、原盤の処理については上記の事例のようにしばしば忘れがちになりますので、この点についても注意が必要です。
なお、フィギュアと著作権関係で特に注目すべきなのは、元フィギュアスケート日本代表の町田樹さんが、フィギュアスケートに関する著作権問題について論文などを発表されていますので、ご紹介させていただきたいと思います。
町田樹『著作権法によるアーティスティック・スポーツの保護の可能性 : 振付を対象とした著作物性の画定をめぐる判断基準の検討』(日本知財学会誌16巻1号(2019))73頁
町田樹「フィギュアスケートと音楽: さあ、氷上芸術の世界へ」(音楽友の社、2022)
最初の論考は、日本でプロスポーツの振り付けの著作権性を検討するにあたって興味深い論考ではないかと思われます。
2冊目の書籍も、私はアメリカに取り寄せて持っております。書籍では、音楽の著作権のことだけではなく、フィギュアと音楽にまつわるさまざまな情報が載っております。また、ジャンプ、ステップやスピンの種類の解説など、さまざま勉強になる情報がたくさん載っております。いつしか、町田さんにサインをもらいにいきます。
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