「味に出るからね」/あきちゃん
路地裏をへこへこ歩く。
二泊目の箱根路は疲れてしまって
どうも足がおぼつかない。
もはや、気合いも充電切れな、
しとしと日和。
コンクリートに打ちつける雨に
かすかに腹の奥で苛立ちすら覚えながら入った鉄板焼き屋。
のれんの奥に店主と思しき眼鏡をかけた爺さんが新聞を置いて、
「いらっしゃぁい。雨どう?」
なんて出迎えてくれる。
上がり畳に3つの鉄板付きの卓が3卓、そしてカウンターの
小さな店屋。
「どこにでも!」
と景気良く言われたけれど、
遠慮して1番奥の卓は避けて、
真ん中の卓へ腰を下ろす。
腰を下ろした途端
どっと疲れが押し寄せながらも
開いたメニューには、選りすぐりの
もんじゃのメニュー。
連れ合いが迷わず
「もちチーズめんたい」を指す。
へいこら、爺さんにもちチーズめんたいを頼むと、
私たちの卓の鉄板で「焼きましょう!」と焼いてくれた。
「油は薄くね!油の香りがついちゃうから、もんじゃ焼きにね!」と
紙でうすーく油をぬり広げ、
「ないくらいでもいいくらい!」
流れる所作で、椀を左手に取り、
さーっと刻んだキャベツ、細切りチーズ、めんたいの入った
もんじゃ焼きを鉄板の上に流し込むと…
ふわぁ〜っ!!…
「いい香り!!」
疲れを吹き飛ばす、チーズなのにあっさりとしためんたいの
香りが鼻から一気に体に流れ込む。
その客の姿を
「ふふっ」と爺さんが見ては微笑する。
「基本が大事なんですね。っなーんて!偉そうにねっ!
でも、不思議なんですね。基本を抑えないと……味に出る。
不思議なもんでねっ!」
店主の長年の経験と重みがこの言葉に現れる。
美しい香り、香ばしさ広がるおこげ。
ジュワーっ!!
…鉄板の音。
農業に置き換えた時、基本とは…を見つめさせられた
「味に出る」だった。
2023.1.16 箱根湯本