配信と有客上演の両立の難しさよ『ジャージー・ボーイズ・イン・コンサート』
「観劇って嗜むものじゃん、そうだわ忘れてた」
社会人になってから何かとガツガツしていた私は、こんな当たり前の認識をすっかり何処かへ放り投げてしまっていた。この認識を思い出させてくれたのは、紛れもなく帝国劇場に訪れていたレディたちである。色鮮やかなワンピースで身を包み、開演前の優雅な時間を過ごす彼女たちと、「勉強のために舞台を見続けなければならない」と身のこなしも気にせず(Tシャツジーパン)(おい)、血眼になって劇場に訪れた瑞穂らしい自分とのあまりの違いになんか泣いてしまった。
平日昼間、『ジャージー・ボーイズ・イン・コンサート』を観劇した。春夏秋冬4つの季節で区切って、フォー・シーズンズのおしゃれな名曲の数々とともに『ジャージー・ボーイズ』の物語の大筋を追えるように作られたコンサートバージョン。本来なら、コンサートでなく通常の作品の上演がされるはずだったが、このコロナのご時世、演出上俳優同士の密が避けられないということでこのような形が取られたらしい。
確かにコンサートバージョンでは、舞台セットがほぼ皆無な代わりにバック全面にはスクリーン、その前に生演奏のためのバンド、そして透明な仕切りを挟んでさらに前にはコーラスたち、さらにさらに前でメインキャストが入れ替わり立ち替わり動く仕様になっていた。
キャストの皆さんの、本物のフォー・シーズンズ顔負けの歌声は「日本人ってこんなにもリズム感のセンス良く技術も素晴らしいハーモニーを繰り広げられるんだった、、、」とこれまた忘れていた認識を思い起こさせてくれた。特にフランキー役の中川晃教さんは、他のメインキャストが2人ずついたのに対してシングルキャストだったにも関わらず、どのパートに劣らず力強さの中に柔らかさを秘めた素敵な歌声だった。そりゃ日本のフランキーは中川さんしかいないよ、、。
生配信も行っているため、舞台上に2台ほどカメラがあり、それが映す映像が舞台上のスクリーンにも映し出されていた。過去公演なのか、今回の公演の舞台稽古なのか、たまに事前撮影された舞台映像も織り込んでストーリーを追うことも。キャストさんがカメラ目線になると、その顔のアップがスクリーンに映し出されてメリットもあるのだが、そのために客席に向かっての振りが少なかったり、映像の演出のためにキャストが真後ろを向けてしまう時間が長かったりと、、、【映像化前提のコンテンツ】としてパフォーマンスが繰り広げられているのを感じると、せっかくお金を払って観劇に来た人からしたら「どうなの?」と思ってしまった。スクリーンと舞台両方目で追わなければならず忙しいし、観劇というより収録見学って感じ。もちろん生配信の方もお金を払って見ているのである程度の演出をつけた映像を提供しなければ、となるのもわかるが、目の前のお客さんとカメラの向こうのお客さん、両方にベクトルを向けて作品を作るにはまだまだ解決しなければならない課題が多そうだ。
キャスト
フランキー・ヴァリ 中川晃教
トミー・デヴィート 藤岡正明・尾上右近
ボブ・ゴーディオ 矢崎広・東啓介
ニック・マッシ spi・大山真志 他
スタッフ
脚本 マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
音楽 ボブ・ゴーディオ
詞 ボブ・クルー
翻訳 小田島恒志
訳詞 高橋亜子
演出 藤田俊太郎
プロデューサー 今村眞治・村田晴子
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?