エンタメの多様化の時代における、データの役割。
こんにちは。エンタメをデジタルで盛り上げる会社Entalの代表取締役、平嶋です。
先日、アニメ系メディアの元編集長の方とお話する機会がありました。
その場で大いに盛り上がった話題が、
「好みが多様化した時代、データ分析することに意味はあるのか?」というものです。
非常に興味深い内容だったので、この場を借りて
「好き」の多様化の時代、データに何ができるのか?を考えていこうと思います。
データ分析は「最大公約数」、エンタメは「最小公倍数」
昨今、日本社会は画一的社会から多様化社会へと変容を遂げたと言われています。
その背景には、デジタル化の進行によるマイノリティの可視化とプル型の情報取得が増加したことが挙げられます。
そして、その多様化の波はエンタメ産業にも影響を与えています。
アニメや漫画、ゲームなどの娯楽は一生をかけても消費しきれないほどに増えました。
そんな山のようなコンテンツを、ファンは己の好きな方法で楽しむ。
アニメを見るだけのファンもいれば、ライブに全通したり痛バッグを作ったりする濃いファンもいます。
楽しむ対象も楽しみ方すら個人の自由に委ねられた今の時代において、データに求められる役割とはなんでしょうか。
「データを分析する」という行いは、主に「統計的処理によって集団の特徴を捉える」ことが目的です。
手元のデータを集計して平均や分散などの統計指標や分布を算出する
母集団を仮定し、仮説が正しいかどうか検定する
といった作業を行うことになりますが、果たしてその結果だけでファンの「愛」や「思い入れ」などの全てを窺い知ることなどできるのでしょうか。
答えはもちろんNOです。
「統計的処理」はあくまでも「集団の特徴」を推し量る作業なので、
ファンたちの間で共通した「最大公約数」的な好みの把握にしか使えません。
ただエンタメを作る側に求められるのは、多くのユーザーの細かな愛への造形を深め、多くのファンが満足する「最小公倍数」を追求することなのではないでしょうか。
人気のあるアニソンDJの特徴
実は一時期、アニソンクラブ(アニクラ)にてDJとして活動していました。
(といっても、参加者数十人規模のほぼ内輪イベントでしたが…)
アニクラに参加されたことがある方は少ないと思うので、どんなものか解説しておくと、「ほぼアニソンしか流れないクラブイベント」です。
アニソンが好きなオタクたちが全身で曲を楽しみ、踊り狂う。
そんなニッチなイベントでDJをしていて感じたのが、この「最小公倍数」の考え方でした。
全員が知っている有名な曲をただ流しても、盛り下がることはなくてもフロアを大きく沸かせることは難しい。
なぜなら、有名すぎて聞き飽きていたり、流れても驚きが少ないためです。
これは個人の見解ですが、アニクラに来る顧客は自分自身の偏愛さを誇りに思っているため、誰でも知っていて世間で流行っているような曲には思い入れが少ないのです。
それとは逆に、マイナーな曲を流すと、誰にも刺さらず盛り下がる危険性はありますが、ごく稀に大歓声を浴びることができます。
「世間で人気はなかったけど、自分は大好きだった作品」の主題歌が流れる確率は低いため、意識の外から殴られるような感覚に陥るのです。
自分の経験から考える「売れっ子のアニソンDJ」の共通点は、
自分の好きな曲だけを流す「素数」的なセットリストでも、
誰でも知っている曲を流す「最大公約数」的なセットリストでもなく、
イベント参加者の趣味を把握し、彼らの「偏愛」が詰まった曲をピンポイントで盛り込む「最小公倍数」的なセットリストを組むことです。
小規模なイベントではありますが、私はこのアニソンDJの経験を通して、エンタメにおけるデータ利活用の真髄に触れたような気がします。
エンタメにおける、データとの向き合い方。
このように、エンタメ産業においてユーザー調査を行う際、
平均や分散といった統計指標を見て「最大公約数」を把握するだけでは、
「間違ってはないけど大きな熱量を生み出しにくい」という及第点的な結論しか生み出すことはできません。
私が行うべきだと考えるのは、理想となるユーザー1人の嗜好や行動、性格までを定量化して徹底的に分析する「N1分析」です。
多くのユーザーの特徴を細かく把握したのちに、
そのユーザー全てが満足できる落とし所を探しにいくのが、
「最小公倍数」的なアプローチです。
効率的な方法ではありませんが、手元で行うのであれば
例えば以下のようなやり方が考えられます。
Twitter(X)を使った方法
Twitter(X)でキーワード検索をかけ、分析したいセグメントのユーザーを探す
そのユーザーのプロフィール、数ヶ月以内の投稿に出てくるキーワード、フォローしているユーザーの特徴を調べる
ユーザー行動ログ(ECサイト・自社サイト)を使った方法
ログイン数・購入数・購入金額からユーザーを切り分け、分析したいセグメントのユーザーを1人に絞る
そのユーザーが過去数ヶ月以内に訪れたページや検索したキーワード、離脱したシーンを調べる
もちろんユーザー全員分の分析を行うことは現実的に不可能ですが、
ユーザーの多さとN1分析の詳細さの掛け算が、
ユーザーたちに対する解釈を深くします。
成果を上げようと焦るあまり「最大公約数」的な観点に陥りがちですが、
時間のかかる「最小公倍数」を見つける作業こそが重要であると、
私は考えます。
まとめ
とはいえ、ユーザーのデータを一人一人確認する作業はとても根気のいる作業。
特に自社にユーザーの行動データがなく、SNSなどの投稿データしかない場合はなおさら大変だと思います。
弊社(株式会社Ental)では、データ取得や自然言語処理を用いた定量化などで、その作業をお手伝いすることが可能です。
ぜひ、今のお悩み事や今把握したいデータのご要望まで、お気軽にご相談ください。