約100名で掛川栗の収穫体験、遠州・和栗の復興に向けた2年目の収穫祭を開催
2023年9月14日(木)、朝5:00の日の出前。掛川市大和田付近に続々と車が集まってくる。清流が流れる原野谷川沿いにあるここは、弓桁(ゆみげた)栗園。今日は待ちに待った掛川栗の収穫祭なのだ。
思い起こせば、遠州・和栗プロジェクトが発足したのは2022年の7月ごろ。掛川栗の現状について学ぶことに始まり、少しずつ仲間を募っていった。同年9月9日には、約200本の栗の木が広がる早川農園にて、初めての収穫体験を開催した。
あれからもう1年が経つ。その間も全国の産地をめぐりながら和栗について学び、「和栗を世界に」を合言葉に仲間との親睦を深めてきた。この日迎えた2年目の収穫祭。約100名の仲間が集った。本記事では、当日の様子をレポートしていきたい。
栽培の苦労と収穫の喜びを共有することが活動の原動力となる
栗の栽培には手間ひまがかかる。「桃栗三年、柿八年」という言葉があるように、実が成るまでに年月を要するし、収穫できるのは1年に1シーズンのみ。やっと育った栗の実も、中身を虫に食われてしまったり、生育が足りず規格外となってしまったりする。
収穫体験を通じて参加者とともに共有したいのは、今年も栗の実を収穫できる喜びだ。そして栽培の苦労も感じながら参加者が一致団結し、和栗を世界に広める原動力としていきたい。
「それでは、尺八とケルティックハープの生演奏を聞きながら、楽しい栗タイムを一緒に過ごしていきましょう!」という春華堂ブランディング戦略室の飯島美奈の挨拶を皮切りに、収穫祭が幕を開けた。
栗の実を早朝に収穫しなければいけない理由
6:30、夜露に濡れた栗の実が、山々の間から昇る朝日に輝いている。木から落ちてイガが茶色くなった栗の実を火ばさみでつまみ、カゴに入れていく。拾った栗はイガを剥(む)いて実だけにし、3L、2L、L、Mのサイズで選別を行ったのちに、JA掛川市が市場へ出荷する。
「栗の収穫は夜明けとほぼ同じ朝の5:30ころに始まります。さらに、晩にも栗の実が落ちるので夜も21:00ころまで収穫作業を行います。栗の収穫時期は、8月下旬から10月中旬まで。とにかく朝と晩の1日2回、収穫作業が欠かせません」と、農園主の弓桁治さんは栗栽培の苦労を教えてくださった。
なぜ、早朝に収穫するのか? 収穫作業は1日1回にまとめることはできないのか?
栗の実が木から落ちるのは朝と晩の2回。なかでも日に当たらず熟して落ちた朝採りの栗が最もおいしいという。ビタミン類などの栄養価も高くなるため、鮮度をそのままに朝の収穫作業が欠かせない。
晩に落ちる栗も夜のうちに収穫しなければならない。そうでなければ、翌朝に落ちた栗と晩に落ちたの栗が混ざって判別がつかず、品質が管理できないためだ。「雨の日も合羽を着て、毎日、朝と晩に栗の実を拾っています」と弓桁さん。
今年も美味しい栗を口にできることは、決して偶然ではないことを学ばせてもらった。
今日はイガをむいた実をそのまま選別にかけたが、本来は水に浮いた栗をよける1回目の選別作業がある。その後、水きりをしてから虫食いや割れ栗をよけ、サイズごとに選別をした栗を袋詰めして出荷する。1年間、手間ひまかけて育てた栗の実も、多い時で収穫したうちの半分ほどが規格を満たせず廃棄となるそうだ。
よい栗の裏によい買い手あり
この作業負担と歩留まりの悪さから、栗農家は全国的に減少している。掛川市は古くからの産地として品質のよい栗が採れる。しかしながら近年は後継者不足により、生産量が2004年の全盛期の5分の1ほどまで減りつづけている。そうした背景を受け、掛川市の久保田崇市長は次のように想いを語った。
「生産量の減少が続いていた遠州の和栗を盛り上げていこうと、こうして企業連合のみなさまにご支援をいただき、多くの方に関心を寄せていただけることを、市長として大変心強く思っています。
お茶でも和栗でも、農業は売り先に行き詰まってしまうのが大きな課題です。遠州・和栗プロジェクトを通じて多くの企業さまに注目いただけるお陰で、新たな出口を見出していけると感じます。すでに加工や貯蔵など、それぞれの視点で和栗の新たな価値を発見してくださっている。今後の期待が高まりました」
そんななか、遠州・和栗プロジェクトが始まってから、生産者からJAに出荷される掛川栗の量が少しずつ増えているという。
「栗は秋の味覚として人気の食材です。現在の卸売価格は過去に比べて低くはないものの、生産者の皆さんが希望とする価格に届いているとは言いきれません。そのため、より価格設定の自由度が高い直売所へ出品する方や、掛川栗の生産を辞めてしまう方が増えているのも事実です。
しかし、産地に寄り添い、共に協力していただけるよい売り先があれば、生産者の皆さまのモチベーションにつながり、懸命な営農活動や栗の厳選出荷に協力してもらえるきっかけになります。
遠州・和栗プロジェクトの取組みとして、今年度から春華堂さんに掛川栗を取り扱っていただけるようになったことで、JA掛川市への栗の出荷者数は増加傾向に。産地・地域にとって、遠州・和栗プロジェクトが大きな影響を与えていることを実感しています」とJA静岡経済連の藤川俊朔さん。
JA掛川市の代表理事組合長 榛葉稔さんは、「今こそ、JA掛川市やJA静岡経済連さんと生産者が一体となり、産地で遠州・和栗を盛り上げ、しっかり世間に知れ渡るよう活動していけたらと思います」と団体の一致団結に期待を込めた。
JA掛川市栗部会の早川正實さんも「私たちJAの立場としても、収穫した栗を一刻も早く出荷して、消費者のみなさんにお届けできる仕組みを作りたい。また、次世代を担う栗生産者の育成にも力を注ぎたいと思います」と、意気込みを語る。
栗園でいただくぜいたくな朝食
作業後は春華堂のシェフチームが朝食をふるまう。三重県産の鯛を使った鯛茶漬けをメインに、春華堂のパイブランド「coneri(コネリ)」のスティックパイをパーティースタイルで。そして、浜松産のシャインマスカットと梨、長野産のナガノパープルのフルーツ盛り合わせ、緑鮮やかな掛川茶をご用意した。
鯛茶漬けは、栗園という素晴らしい場所で非日常を味わっていただけるよう、特別な一杯を演出している。
昆布〆をしてさらに軽くあぶった鯛には、味噌とゴマのタレを添え、ネギや花穂紫蘇などの相性のいい薬味で味わいをまとめている。梅干しは浜松市宮口の「宮口小梅」を使用した。昆布とカツオをベースとし、お茶の粉をアクセントに加えた「茶出汁」をかけていただく。料亭などでいただくような本格的な味を目指しながら、どこか懐かしい味わいを楽しんでいただけるよう工夫を凝らした。
coneriのパイは、パイ本来のおいしさを味わってもらえるようオーソドックスな塩味をチョイス。駿河産の桜エビを使ったタルタルを添え、チコリに乗せていただく。ご家庭でも手軽にレストランの本格的な味を楽しめる、coneriのスタイルに親しんでいただけたら嬉しい。
熟成させた掛川栗を秋のスイーツで展開
さて、今シーズン収穫された掛川栗は、春華堂でも2トンを買わせていただいた。現在は、糖度を高めるためにマイナス1度で2か月間貯蔵中なのだが、この掛川和栗を使ったチャレンジが2つ始動している。今後の展開について、常務取締役の間宮純也よりお伝えした。
「1つには、栗が最高糖度に達する条件を研究しています。1週間単位で糖度を計測しているのですが、通常の糖度計測ではすりつぶした栗の実を使わなければいけません。そこで協力してくださるのが、浜松ホトニクスさんです。光技術を応用し、栗の皮をむかない糖度計測にもチャレンジしてくださっています。
弊社でもチャレンジとして、遠鉄百貨店さんと掛川栗の新商品を共同開発していきます。11月ころを目途に、素材を生かした和菓子やエクレアなどを、遠鉄百貨店やニコエ、スイーツバンクで販売する予定です。
今日は、2年目の記念すべき一歩となりました。出会う方々にご協力いただきながら、ますます遠州と全国の生産地を繋げていきたい。最終的には世界で戦っていける農業を目指していきましょう」
次回は、11月13日(月)に植樹祭を開催する。プレゼンターはヤマハ発動機株式会社の齋藤昭雄さん。次のように意気込みを語った。
「掛川栗における後継者不足という課題は、製造業にも通じる課題です。弊社が強みとする自動化やロボットの技術を生かしながら、人手で行うのが大変な作業を極力減らしていくことで、『栗生産の魅力化推進』を図っていきたいと思います。
とはいえ弊社単独でできることはほんの一部です。製造業のネットワークに協力を呼びかけることで、きっと大きなヒントが得られるはず。次回の植樹祭では、参加者同士が志をより深く共有し、遠州地区から全国・全世界に向けた活動として認知を広められるよう尽力したいと思います」
栗を介して遠州地域の企業と団体、行政同士が交流し、想いを1つにする機会となった。栗の生産には相応の手間がかかるものの、参加者が連携すれば楽しい農業も実現していけるだろう。そんな希望を感じさせるほど、栗には人を惹きつけてやまない不思議な力が秘められているのかもしれない。
時刻は8:50ーー。美しい日の光が農園全体を照らしている。収穫祭のさいごに、掛川栗1キログラムがお土産として贈られた。「11月の植樹祭のときには、みんなで焼き栗をやりたいね」と弓桁さんの笑顔がはじけていた。
次回の植樹祭もぜひご期待いただきたい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?