空回りするわたしを捨てて、列車に乗った。「COMPARTMENT NO. 6(コンパートメントNo.6)」
Moi!
ピザが無いと生きていけないとエンピツカフェの店員さんに噂されているアンです。今日もピザ、もぐもぐとほおばってます。
お気に入りの世界の映画を紹介しますね。
今回紹介する映画の舞台は、携帯もSNSもない1990年代のモスクワ。
主人公は、モスクワに留学中のフィンランド人学生のラウラさんと、粗野なロシア人労働者のリョーハさん。
ラウラさんの恋人は、大学教授のイリーナさん。イリーナさんは、知的で美しく、友だちも洗練されていて、ラウラさんにとって憧れの存在。
そんなイリーナさんと一緒にペトログリフ(岩に彫られた古代彫刻)を見に行くため、北極圏の街、ムルマンスクに向かうはずだったのですが、イリーナさんは、仕事が忙しいという理由で、ラウラさん一人で寝台列車に乗り込むこととなります。
コンパートメントとは「寝台列車の個室」のこと。
その「寝台列車の個室」でラウラさんと同じ部屋に乗り合わせたのが、鉱山で働くためにムルマンスクに向かうロシア人のリョーハさん。
席に座るなり酒を飲んで酔っ払い、インテリな恋人イリーナさんの友人たちとは正反対のがらの悪さに、ラウラさんはうんざり。
最悪の出会いから始まった、二人の長い旅の行方は、というお話なんです。
実はリョーハさん、デリカシーに欠けるものの、裏表はなく、子供のようなに無邪気なところもあり、コミュニケーションが下手で一人で空回りしているだけ。
その空回りしている姿を他人事と思えず、親近感を感じていくラウラさん。不器用な2人が不器用に距離を縮めていく様子が描かれていきます。
ちょっと話題は映画のストーリーから離れますね。
フィンランド生まれのJuho Kuosmanen(ユホ・クオスマネン)監督が「コンパートメントNo.6」を制作したのは、ロシアがウクライナ侵攻をはじめる前の2021年。
ロシアとフィンランドの人々が、ラウラさんとリョーハさんのような心の触れ合いを再び持てる日を期待して、この映画を制作していたとのこと。
ロシアの前身国ソビエト連邦は、1939年11月末にフィンランドに侵攻し、40年3月まで続いた「冬戦争」でフィンランド領土の一部を奪います。
フィンランドは41年6月に独ソ戦が始まったことを契機に、再びソ連に「継続戦争」を挑むのですが、ドイツの敗勢によって、フィンランドが再び、大幅な領土の割譲を行うこととなってしまったのです。
フィンランドとロシアは、1,300km以上にわたる国境線をもった隣国で、常に緊張した関係に置かれているんですね。
そんな緊張関係の雪どけを願っていた人も多いと思いますが、2022年2月24日、ロシアがウクライナへの全面的な軍事侵攻を開始したことにより、平和への価値観が大きく変わることとなってしまいます。
フィンランドを代表する巨匠Aki Kaurismäki(アキ・カウリスマキ)監督を思い起こさせるメランコリーとオフビートなユーモア、そして雪をも溶かす純な心が、不器用で孤独な魂を結びつける愛の物語。気になる方は是非観てみてください。
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