めんどくさがりでも、美しく暮らしたい
有元葉子のように、美しい料理を作りたい。
学生のころから、思い描いていた。
スーパーで旬の野菜を見つけて、ささっと何品かつくる。
彩鮮やかな料理は、お気に入りの器に盛り付けて、
テーブルクロスは季節ごとに変えて、
ろうそくなんかも灯しちゃって、食卓を彩る。
そんな生活に、憧れていた。
でも、私はめんどくさがりだった。
有元葉子への憧れとは裏腹に、
何もない休日でさえ、料理する気にならない。
せいぜい、日曜の夜に、作り置きを一品作るくらい。
えのき、長ネギ、豚の細切れ肉を炒めて、タッパーに分ける。
仕事から帰ったら、卵と一緒に冷凍うどんに乗せる。
作り忘れたら、水を飲んで、お腹をもみもみして、何も食べない。
それくらい、現実世界では食と料理へのモチベーションが低い。
昔は、お金と時間がないことが原因だと考えていた。
社会人になって、好きな食材買えるようになったらやるのかなあって。
でも、近頃そうでもないことに気がついた。
お金と時間があっても、「めんどう」が勝つ。
手の込んだ料理を作ると、「疲れたなあ」という気持ちだけが残ってしまう。ただの、めんどくさがりな性格だった。
だから、素敵な料理を作ることはあきらめて、
めんどくさがりな自分を受け入れつつ、
有元葉子の何に憧れていたのか、改めて考え直すことにした。
料理ではないのは明らかだ。
料理をすること自体に、魅力を感じないから。
じゃあ、見た目の美しさ?食の豊かさ?
数日うんうんと考えるうちに思い出した。
私は日常を美しく着飾って、毎日をお祭りにしたかったんだ。
空腹を満たすという行為に、食事の色彩や雰囲気を加えて、
平凡で色褪せた毎日から逃げ出したかったんだ。
白く均一に照らされたワンルームの景色を、ただ、塗り替えたかった。
だったら、食事をとる空間を、盛り上げてみよう。
いまは作業机も兼ねているちゃぶ台でご飯を食べているから、
小さな食事用のテーブルを用意しよう。
そこにテーブルクロスを引いて、ささやかな小物を置いて、
少し特別な気分でご飯をたべよう。
作る料理は、いまのままでいいから、
豆腐とか、お漬物を添えるようにしよう。
お箸はちゃんと箸置きに置いて、
一人でもいただきますと言ってからご飯を食べよう。
たまに冷凍の野菜でいいから、パスタを作って、ワインを飲もう。
うん、それがいいや。それがいいや。