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(小説)solec 4-2「再会」

 私は何も変わらない朝の街を放浪している。

 病院が決めた日課で、私は毎日決められたルートを散歩しなければならない。ソレクの街並は直線と曲線が規則的に・不規則に混じり合うので、おかしくなりそうだ。そんなことを考えながら歩いているとふと、広場に人だかりができている。どうしたのだろうと見ると。彼女である。彼女を見るのはオレンブルクの事件の日以来である。忘れるわけもないが、あれからいろいろあって、遠くのことのようだ。でも、その時、はっきりと蘇る。

「ヒャッハー!!」

 だが、同時に、彼女の姿に愕然とする。あの子、あいつ、あいつ公然の場でなにをやってんだ!?彼女は、全裸であった。自分でも驚くほど、私の行動はそれまでの彼女に対する心象を逸脱している。だが、それ以上に彼女は常規を逸している。私はひとを掻き分け、彼女の腕を掴む。

「おい!」なんて叫んでしまう。病棟で、ぼーっとすることばかりだった脳に新鮮な血流が生まれる。彼女の腕の感触に心臓が高鳴る。誰かの皮膚に触れることが新鮮で。

 「警察が来る前に、私が連行します。」宣言した。


 私ってば何を言ってるんだろう。気持ちと発言が一致しない。おもむろに見物人のひとりがチェックのスカートを降ろして、私にホイッと投げてくれた。それで彼女の身体を包む。なんて華奢な体つきだろう。路地裏まで連れてきて、問うてみる。

「訳を。」声がちょっと上ずってしまう。
この子ってなんて愉快な子なんだろう。笑いを堪える。

 彼女には私が怒っているように見えるらしく、ひどく怯えている。そんな表情がまたとても愛らしい。何故か、私はこの子に対して突発的に強い感情が芽生えているようだ。運命的なものを感じているのだろうか。まさかね。

「あっっと。お、お姉ちゃん・・・。お久しぶりです。」
今にも泣きそうに俯く彼女。本気で怯えている。

「訳をって聞いてんの。あんたいま何やってたの。」
さらに小さくなる彼女。

「えっと、・・・芸術です。」
あぁあの時と変わらない。抱きしめたくなる。

「そう、まぁ取り敢えず、このスカートを履きなさい。」
まずこの台詞をかけるべきなのに、私ってば。

「家から・・・」裸なのね。まったく。そう言うと思った。

「そう、ならこの清潔な街に。スカートを貸してくれた彼のいる世界に感謝ね。」その言い回しに安心したらしく、彼女はその小さな顔を私に向け、いたずらっぽく微笑む。

「お姉ちゃん。天使?」
一本取られた。


「あたしの家は嫌よ。」その瞬間。急に我に返った。私の家は・・・もう没収されている。ずっと病院で暮らしていただなんて言えない。彼女は私の一瞬の曇りに気がつく。

「私ね、お姉ちゃんのこと、ずっと探してたんだよ。どこにいたの?」

言えない。

「そう、別にいいけどさ。」
これでは立場が逆だ。私、責められてる?


「あの・・・さ、取り敢えずスカートを履こう。」二度目だこの台詞。


「お姉ちゃん。あたしのうち、来る?」はぇ?


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