病気を治せる神様
双極性障害は検査ではわからない目に見えないものだからか、この世には西洋医学の力を借りずに自然療法などの東洋医学の力だけで病を治せると信じる者が結構いるらしい。
でも果たしてそれを謳っている人は双極性障害の当事者なのだろうか。本当に病のことを理解しているのだろうか。
風邪など少し体調が優れないという場合なら、自然療法で良くなる例はあるかもしれない。
ただでさえ病気で思考が鈍くなっていることもあり、そういった考えを信じて、自己判断の断薬をし悪化してしまう患者は少なくないらしい。
女が薬を持たずに治療を放棄して家出したのは、その考えを信じてしまったからだ。数年前から薬で治療してきたが、体力は戻らないし長時間働くこともできない。それを薬のせいなのではないかと言ってきた人がいた。医療や病院は金儲けのビジネスであり、薬は悪だから辞めたほうが良いと言った。
浮かない日々に嫌気がさしていた。何を信じればよいのかわからなかった。その人の言う通り薬が悪いのかなぁと思い始めた。そんなときに、知り合ったばかりの遠方の知人が、ここへ来れば薬無しで病気を治せると言ってきた。女は神が現れたと思った。すぐさま身一つで家を飛び出した。
人は一度信じた神を疑うことはなかなかできない。女は神から新しい名前をもらい、それを名乗るようになった。神を信じてなんでもやった。神に気に入られようと努めた。ある時にはこれを吸うと楽になると言われ、それを信じた。
しかし病は日に日に悪くなり、遂に女は本当に死にそうになった。その途端、神は女を切り捨てた。東洋医学の力では良くならず、それどころか悪化して元いた場所に戻された。それでも女は、しばらく神を疑えなかった。
断薬をしてとても苦しい思いをした。二度と味わいたくない経験をした。それは誰もが一生味わう必要のない経験だった。
女は今どこにいるのだろう。神を恨んでいるだろうか。信じてしまった己を憎んでいるのだろうか。
神は探してはいけない。信じるべきは己、そして心の底から女を愛している人だけなのだ。
目に見えない病と闘う人々が、今日を生きられたことに感謝して。
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