自由詩 小品集 - 死生観
一.
来迎をもって目を眩ませることもできよう
印を結べば誰しもが救われることもまた真
拠り所に身を寄せ存在を確かめあう
あたたかな溜息と多少のまどろみ
信仰を餌にしてこどもは肥える
オルガンのゆらぎに
泉は煮え立つ
一.
右脳のいたみは悲鳴ではない
かがよう眠気は未熟の悦び
未完の者よ あの頂には
はるかな空が在るだけでよい
迷える者よ あの最果てでは
種子の歌唄が聴こえればよい
一.
波濤によせるアタラクシア
時代の深化は静かにすすむ
人の生じたこの世では
獏も麒麟も さもありなん
羚羊の群を見送りながら
次代の星雲いかばかりかと
一.
櫂が一本浮いている
二度と帰らぬあの方々は
濃霧の谷で白葦の原で
濾した瞳を洗い清める
阿含と龍吟蝸牛に満つ
喉頭先んじて涅槃に入る
一.
わたしの瞳の
タラゼド
キタルファ
アルフィルク
グラフィアス
そして
あはれなるメンカルの輝き
一.
胡乱なまなこをもってして
世渡り放浪するがよい
わたしはあなたに構わない
那由多の彼方へ帰るまで
一.
早朝の森の黛青に
溶け入る産声 いつかの残蝉
樹々の墓場は なおもやさしく
人であることを許されてゆく
年端もいかぬ子どもらが
人であることを許されてゆく
一.
息急く老婆と若人の
諸手を上げて南無南無と
様相次第に近似して
二輪の花の りんと鳴り落つ
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