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【美術展】夏と秋の美学/根津美術館(東京都港区)

アーティゾン美術館で酒井抱一ほういつと鈴木其一きいつの師弟コラボを見て、俄然楽しくなって、そういえば、根津美術館で鈴木其一にフォーカスした企画展が開催中なことを思い出した。
会期(2024年9月14日(土)~10月20日(日))終盤も終盤、最後の金曜日(2024年10月18日)に行ってきた。

印象深かった作品


★燕子花だけじゃないんです「夏草図屏風」尾形光琳

「夏草図屏風」尾形光琳 18世紀・江戸時代
(琳派コレクション)

前回、国宝・燕子花図屏風を見に行った際に購入した、根津美術館発行の「琳派コレクション」であらためて復習するのが楽しい。
中央の紅白の立葵たちあおいは、フライヤーの表面に掲載されている。

大胆な対角線の構図。
屏風下辺でトリミングされた左下の燕子花などはやや俯瞰視する視点
主役ともいうべき紅白の立葵は正面視
右上の春の草花は仰ぎ見る視点
国宝・燕子花図屏風の左右隻における視点の変化と似ている。
見方を変えると、草花が左下から右上へ大きく弧を描きながら飛翔してゆくような感覚。
金屏風における光琳の草花図のひとつの到達点。

琳派コレクション

★重要文化財「夏秋渓流図屏風」鈴木其一

重要文化財「夏秋渓流図屏風」鈴木其一 19世紀・江戸時代
(琳派コレクション)

『東京国立博物館に所蔵されている、鈴木其一の師・酒井抱一による「夏秋草図屏風」の面影をとどめつつ、左右で地面の緑にわずかに濃淡差。ねっとりした渓流の表現』、と解説にあったので、抱一の「夏秋草図屏風」を確認。

「夏秋草図屏風」酒井抱一 19世紀・江戸時代 東京国立博物館蔵

抱一の面影、構図的には分からなかったが、

右隻部分

右隻の百合、水の描き方、裏返った葉の色に見えるだろうか。
其一の「夏秋渓流図屏風」から脱線するが、抱一の「夏秋草図屏風」の「文化遺産オンライン」の解説が興味深かった。

この作品は、酒井抱一が尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏にあとから描き加えたもの。第11代将軍徳川家斉いえなりの父で、一橋家の当主、治済はるさだから制作を依頼された作品。作品保存のため、1974(昭和49)年に表と裏に分けられ、現在はそれぞれ別の屏風になっている。
月の光を思わせる銀色の地に、夏から秋の草花が爽やかな色彩であらわされている。右隻には、百合や昼顔などの夏草が、うなだれたように葉先を地面に向けている。背景には地面にたまった雨水が流れ出している。雨粒を描くことなく、夏の強い夕立を表現している。
左隻には、くずや藤袴、ススキや野葡萄といった秋の草花が右から左へと大きく風に吹かれている。宙に舞う野葡萄や、裏返った葉の色に、風の強さがしめされている。
夏草図は、もともとは光琳の雷神図の裏に、秋草図は、風神図の裏にあった。つまり、この夏草は雷神がもたらした雨に打たれており、秋草は風神が巻き起こした風に吹かれているという関係にあった。
他にも光琳の「風神雷神図屏風」と抱一の「夏秋草図屏風」には、金と銀、天上の世界と地上の世界といった対比が見られ、光琳に憧れた抱一が、さまざまに光琳の作品に応えようとしたことがうかがえる。

文化遺産オンライン
夏秋草図屏風 文化遺産オンライン (nii.ac.jp)

増々、脱線してしまうが、尾形光琳「風神雷神図屏風」

「風神雷神図屏風」尾形光琳 18世紀・江戸時代 東京国立博物館蔵

其一の「夏秋渓流図屏風」に戻って、

比例的に大きすぎる白い百合や熊笹の非現実感。

琳派コレクション
フライヤーから
大きすぎる百合と熊笹の非現実感がよく分かる。


★重要美術品「花鳥図襖」松村景文 1813(文化10)年

雀のとまる合歓ねむの根元に鉄砲百合が咲く夏の景から、

文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146604

黄蜀葵とろろあおい秋海棠しょうかいどうなど秋草のくさむらをへて、冬の残菊、早春の水仙

文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146604


★重要美術品「色絵武蔵野図いろえむさしのず茶碗」野々村仁清にんせい

このお茶碗は高台こうだいを上にして、うつぶせにして展示して欲しかった。とにかく、胴の絵柄がとても愛らしくて美しかった。

重要美術品「色絵武蔵野図いろえむさしのず茶碗」野々村仁清にんせい 17世紀・江戸時代
文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146664

胴の美しさを楽しむために、中腰で鑑賞。

満月の下で秋風にそよぐすすきを描き武蔵野の秋景をあらわしている。月は白釉はくゆうで大きくあらわされ、その下で青白く輝く夜の野は銀を塗りつめている。銀はすでに酸化して灰黒色の燻銀のようになって、暗夜の野原を想わせるが、当初にあっては、華やかな雰囲気の茶碗であったことは想像に難くない。芒は赤、緑、青を用いて二そうに描かれ、背の高い芒は内側の口縁こうえんのところにその穂先をのぞかせている。

文化遺産オンライン

芒が内側の口縁のところに、穂先をのぞかせているのがわかる。

重要美術品「色絵武蔵野図いろえむさしのず茶碗」野々村仁清にんせい 17世紀・江戸時代
文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146664


★「秋野蜘蛛蒔絵硯箱・料紙箱」19世紀 江戸~明治時代

硯箱に「蜘」の字が、料紙箱に「蛛」の字があしらわれている。蜘蛛の巣の繊細と相まって、見飽きない作品だった。

★「白備前鳥椿形香炉」18~19世紀 江戸時代

鳥、特にくちばしの繊細さと、椿の可愛らしさといったら、それが白備前なんですから白の美しさと共に、すばらしい作品だった。

この日は開館の20分ほど前から並んで入館した。お目当ては、美術館に併設されている「NEZU CAFE」。前回訪れた時、いつ前を通っても並んでいたので、次回のお楽しみにとっておいた。予め予習をして臨んだので、その通りに事が運んだが、反省点もあり。反省点は経験しなければ分からないこと。それも含めて、充実した1日だった。

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