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【読書】「画家とモデル」中野京子~世界で誰ひとり知らなかった世紀の密会
ジャケ買いという本の買い方がある。中身以前の装丁が好きで本を買うこと。「画家とモデル」は「帯」が衝撃過ぎて買った本。
世界で誰ひとり知らなかった世紀の密会
人妻は描かれるごとに変貌を遂げて
どんな風に描かれたんですか!
どうして人に知られることになったんですか!
どんなふうに人妻が変貌を遂げたのですか!
アンドリュー・ワイエス(Andrew Wyeth)の一番有名な画は、
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だろう。
後姿からはピンとこないが描かれた当時クリスティーナは55歳だった。顔が見えないことと、ピンクのワンピースの力はすごい。
「アンドリュー・ワイエス作品集」には、4年後、19年後のクリスティーナも掲載されているが、「人」を絵画に落とし込む際にワイエスが意図したであろうことに圧倒された。
表面上の美醜とは関係なく、クリスティーナの確固とした存在感と意志の強さに惹かれ、それを真正面にとらえた
クリスティーナはここでいう「人妻」ではない。
「人妻」は装丁の女性「ヘルガ」である。
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この眼差しが好きで、この本を自室に飾っている。
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”ヘルガはモデルとして完璧だった。彼女は全身全霊でポーズをとるのだ。アメリカ人の中にヘルガのような素晴らしいモデルを探すのはむずかしいだろう”
”画家とモデルの間には、ある関係が成立していなければならない。それは性的な関係ではなく、一種のギブ・アンド・テイクの関係だ”
ヘルガ、その後
1985年にヘルガの存在がマスコミにセンセーショナルに扱われ、モデルを務めなくなってからも、ワイエスとの関係が途絶することはなかった。妻ベッツィも認めるワイエスの助手として、ペンシルヴェニア州だけでなく夏のメイン州にも同行して、最晩年までワイエスの身の回りの世話を続けたのである。
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この頃「シリ」は16歳ごろ。
ワイエスにとって、年々衰えていくクリスティーナが生の終わりを予感させる滅びの象徴だったとすれば、シリは再生へとつながる生命の象徴であった。だからこそシリの絵にはそうした湧き出すような生の輝きが感じられるのだ。
妻・ベッツィの双眼鏡とレインコートを描くことによって、画面にいない「人」の存在を暗示する。
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ワイエスの絵を見たいと思っても、個人蔵が多かったり、アメリカの美術館蔵が多い。そんな中でも日本では、
「福島県立美術館」と「丸沼芸術の森」で所蔵している数が多い。
「第Ⅰ期コレクション展」が2024年7月22日(月)まで開催されていて、ワイエス の作品は「農場にて」1988 年 紙・水彩、が展示されている。
「画家とモデル」には「ジョン・シンガー・サージェント」の作品も登場する。サージェントと言えば、この作品がよく知られている。
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私はこの絵は「大塚国際美術館」で複製を見たが、愛あふれる美しい絵だった。
「画家とモデル」に掲載されているサージェント作は
「トーマス・E・マッケラーのヌード習作(Thomas McKeller)」1917-21年 ボストン美術館蔵
だが、この本の中で一番衝撃的な絵だった。
描かれた当時の時代背景から、「禁書」ならぬ「禁画」ともいえる作品。
可愛らしい少女たちが登場する「リリー、リリー」を愛あふれると表現したが、サージェントの本当の愛は「トーマス・マッケラー」に極まっていたのではないか。愛を絵で表現するとはこれだ!と思わせる、息をのむ迫力。
興味ある方は、是非、ググってみて欲しい。