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時事問題解説:過去、世界の国々で税率を引き下げた結果、国の状態はどうなった?

目次:
①世界中の国々の中で税率を引き下げた結果、税収が増加した国とその政策代表例
②世界中の国々の中で税率を引き下げた結果、税収が減少した国とその政策代表例

①世界中の国々の中で税率を引き下げた結果、税収が増加した国とその政策代表例

1. アメリカ(レーガン減税 / 1980年代)

概要

  • 1981年、レーガン政権が「経済復活法」を導入し、**所得税の最高税率を70%→50%**に引き下げ。

  • 1986年には「税制改革法」を施行し、**最高税率を50%→28%に引き下げ、法人税も46%→34%**に低減。

結果

  • 一時的に税収は減少したが、1983年以降経済成長が加速し、GDPとともに税収も増加

  • 1980年代後半には所得税収が減税前より増加し、失業率も低下。

  • ただし、軍事費増加により財政赤字は拡大。


2. イギリス(サッチャー減税 / 1980年代)

概要

  • 1979年、マーガレット・サッチャー首相が**所得税の最高税率を83%→60%、基本税率を33%→30%**に引き下げ。

  • さらに1988年には、**最高税率を60%→40%**に再引き下げ。

  • 法人税も**52%→35%**に段階的に削減。

結果

  • 経済成長が加速し、失業率も低下。

  • 所得税収が増加し、英国の財政状況が改善

  • ただし、減税と規制緩和により格差拡大の問題も指摘された。


3. アイルランド(法人税引き下げ / 1990年代〜2000年代)

概要

  • 1980年代の財政危機を経て、1990年代に法人税を**40%→12.5%**に大幅引き下げ。

  • 欧州の企業誘致を目的に、多国籍企業向けの優遇税制を強化。

結果

  • 外資系企業の流入が急増し、ハイテク産業や製薬業界が発展。

  • 1995年から2007年にかけてGDPが約3倍に増加し、法人税収も増加

  • ただし、2008年の金融危機で税収が一時的に急減し、財政赤字に。


4. ロシア(フラットタックス導入 / 2001年)

概要

  • 2001年、ロシア政府は累進課税制度を廃止し、一律13%のフラットタックスを導入。

  • 法人税も**35%→24%**に引き下げ。

結果

  • 税収が急増し、地下経済の縮小と税務コンプライアンスの向上が見られた。

  • GDP成長率も上昇し、2000年代の好景気を支えた。

  • しかし、2008年の金融危機で税収が減少し、2010年代には高所得者向けの累進課税が復活。


5. 香港(低税率維持による経済成長)

概要

  • 企業や個人に対し、もともと低い税率(法人税16.5%、所得税最高17%)を維持し、課税システムをシンプル化。

結果

  • 低税率を維持することで、国際的な企業が集まり、税収が安定的に増加

  • 高度成長を支え、財政黒字を維持。


税率を下げても税収が増える条件

税率を下げても税収が増えるケースは、以下の条件がそろっている場合が多い。

  1. 経済成長が促進されること

    • 減税が消費や投資を刺激し、GDPの成長に寄与する場合。

  2. 企業誘致が成功すること

    • 法人税引き下げで外国企業の投資を呼び込み、税収を確保できる場合(アイルランドの例)。

  3. 地下経済が縮小すること

    • 税率引き下げにより、納税意識が向上し、課税ベースが広がる場合(ロシアの例)。

  4. 適切な財政政策と組み合わせること

    • 減税と同時に歳出削減や財政健全化が進められる場合(サッチャー政権の例)。

まとめ

税率を下げても税収が増える国は存在するが、成功するためには経済成長や企業誘致を確実に促進することが必要。逆に、減税が単なる「財政赤字の拡大」につながるケースも多いため、政策のバランスが重要。

②世界中の国々の中で税率を引き下げた結果、税収が減少した国とその政策代表例


1. アメリカ(トランプ減税 / 2017年)

概要

  • 2017年、トランプ政権は**「税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act)」**を導入し、法人税率を35%→21%に大幅引き下げ。

  • 所得税の減税も実施。

結果

  • 2018年の連邦政府の税収は8%減少(約1.5兆ドルの減収予測)。

  • 財政赤字が拡大し、2020年にはGDP比で100%を超える政府債務を抱える状態に。

  • 企業の利益は増えたが、税収増加にはつながらなかった。


2. イギリス(リズ・トラス政権 / 2022年)

概要

  • リズ・トラス首相が**大規模な減税(所得税の最高税率45%→40%に引き下げ)**を発表。

  • 法人税増税の予定を撤回。

結果

  • 政策発表後、ポンド暴落、国債利回り急上昇、金融市場混乱。

  • 政府の財源確保が困難になり、結局減税案は撤回

  • トラス政権は支持を失い、わずか49日で辞任。


3. スウェーデン(1990年代)

概要

  • 1990年代に法人税を大幅に引き下げ(50%→30%→28%)。

  • 企業の競争力向上を狙ったが、同時に所得税の累進課税を一部緩和。

結果

  • 結果的に税収は減少し、福祉制度の財源不足に直面

  • その後、消費税や環境税を引き上げて補填。

  • 法人税減税は維持されたが、他の税負担が増加した。


4. ロシア(フラットタックス導入 / 2001年)

概要

  • 2001年に**所得税を一律13%の「フラットタックス」**に変更(従来は累進課税で最大30%)。

  • 企業の法人税も引き下げ。

結果

  • 一時的に税収が増えたが、2008年の金融危機後に税収が急減

  • 2021年には高所得者向けに累進課税(15%)を復活させることに。


税率引き下げが必ずしも税収増加につながらない理由

  1. ラッファー曲線の限界

    • 「税率を下げると経済成長が加速し、結果的に税収が増える」という理論(ラッファー曲線)があるが、必ずしも機能しない。

    • 減税の効果が企業や高所得者の貯蓄にとどまり、消費や投資に回らないケースが多い。

  2. 財政赤字の拡大

    • 減税による税収減少を補うために国債発行が増加し、財政赤字が悪化する場合がある。

  3. 景気や政策の影響

    • 減税のタイミングが悪いと、経済が低迷したままで税収が伸びない(例:トランプ減税はコロナ禍で財政悪化)。


まとめ

税率を下げても税収が増えるとは限らず、むしろ減税により財政悪化を招いた国も多い。特に、社会保障や財政赤字が問題となっている国では、安易な減税は逆効果となる可能性が高い

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