
「蛙化」って英語で何?(Part2:蛙化現象の英訳は?)
講談社Webマガジン『コクリコ』さんでコラム連載をしています。このnoteではコラムの裏話(!?)や書ききれなかった情報(!)を書いていこうと思います。
コラム第1回目は「蛙化現象」「ガチ勢」日本の若者言葉は英語でなんていう?
前回のnoteでは「蛙化現象」の日本語の解説をしただけで1300文字以上にもなって英語の解説まではたどり着きませんでした。なので、今回はその英語についてです。「蛙化現象」は英語では何というのでしょうか?
実は「蛙化現象」には定訳英語が存在します。「frogification phenomenon」というのがその言葉。普通に「蛙化現象の英訳」とググるとこの単語が出てくるんですが、なんとこの「frogification」は、「frog(カエル)」と「-ification(〜化)」を組み合わせた造語とのこと。
造語~?なんで「蛙化」なんて言葉をわざわざ造る必要があるの!?と疑問に思ったのですが、キャラクターや物体がカエルに変わる現象を描いたアートや、カエルの特性や特徴を持つようになることを表現するために使われる言葉らしいです。
まあ、確かにね。キャラクターがカエルに変わるシーンはよく見かけるし。。。いや、見かけないでしょ!
なので、とにかく、同じ「蛙化」と言っても「ある出来事をきっかけに、好きな人への好意的な感情が一瞬で冷めてしまう」という意味には「frogification phenomenon」は使えない(意味が通じない)わけですね。
では、どう英訳すればいいのでしょう?
今回は、知り合いの若い英語圏出身者に私が直接聞いて回りました。全部で15人以上には聞いたはず。
そこで面白い発見がありました。私が質問した人は19歳~34歳と年齢にもある程度幅があり、国籍もアメリカ、イギリス、カナダと3ヶ国に渡っていたのですが、「ほらぁ、王子様だと思っていた彼氏がくちゃくちゃ音を立てて食べているのを見て、一気に冷めることってあるじゃない。王子様だったと思ってたらカエルだったっていうことって。」と、王子様と蛙の例をだすと全員が「あ~、言ってることわかるよ!」と納得してくれたのです。
どうやらグリム童話の『かえるの王様』は思った以上にグローバルな一般常識らしい。。。
で、このグローバルスタンダードを基にして「蛙化現象」に一番ふさわしい英語表現をこの15人に聞いてみたところ、下記の3つの候補が上がりました。
① 状況直訳型「蛙化現象」: Realizing “He is a frog!”
日本語訳は「彼は実はカエルだったと気づくこと」。“He is not a prince!”「彼は王子様じゃなかった!」などと続けるとさらにわかりやすい。理想の「王子様」だと思っていた相手が現実には期待外れで「カエル」のように見える、という蛙化の状況をそのまま英語にした表現。
② 既存英語表現応用型「蛙化現象」: Be disappointed to see his true colors
日本語訳は「彼の真実の色を見てがっかりする→彼の本性を見てがっかりする」。これは昔からある標準的な表現で英語らしいと言えば英語らしいのだが、若者言葉ではなく、新しい表現でもないので、「蛙化」という言葉が与える面白みが全く感じられない。
③ 既存スラング流用型「蛙化現象」: Getting the ick
日本語訳は「一気に気持ちが冷めること」。“ick”は英語のスラングで不快感や嫌悪感を表す感嘆詞/名詞。恋愛の文脈では、相手に対する気持ちが冷める原因を指す。"I got the ick."の形以外に、彼などを主語、"give"などを動詞にしても使える。“He gave me the ick.”は「彼の何かが私にとって気持ちを冷めさせる原因となった」という意味。"ick"は若者が使うスラングなので、新しく、面白い印象を与える。
この3つをさらに精査し、最終的に③の“Getting the ick”を『コクリコ』のコラムに採用しました。
日本人にはあまり馴染みのない表現なので、例文をいくつかあげますね。
1) After seeing how he treated the waiter, I got the ick. 「彼がウェイターにどう接しているかを見て、一気に冷めた(蛙化した)。」
2) The way he chews his food gave me the ick. 「彼が食べ物を噛む様子が気持ちを冷めさせた(様子で蛙化した)。」
3) I got the ick when I realized he never says thank you. 「彼がありがとうを言わないことに気づいて、一気に冷めた(蛙化した)。」
ね~。「蛙化現象」にピッタリな言葉だと思いませんか?
今回、この表現を見つけ出すために15人以上のネイティブ英語話者に聞いて回りました。今はインターネットが発達しているのでそれほど難しくはなかったですが、インターネットがまだない時代はもっと苦労してフィールドワークをしていたんでしょうね。。。
次回は、私が大学時代に文化人類学の先生に聞いたフィールドワークのノウハウ(苦労話)について書きたいと思います。実は当時聞いた話が今回の調査においてものすごく役立ちました。今後も新しい言葉を英訳する必要がある時、もしくは新しい英語を和訳する必要がある時に、この先生の話はずっと指針となり続けるでしょう。
よく「世の中で無駄なことは何もない」と言いますが、本当に聞いておいて無駄な話はないんですね。当時は「なんのこっちゃ」と思っていたことも、何年も経ってから心の拠り所になったりするものです。
ではまた次回。お楽しみに~!
いいなと思ったら応援しよう!
