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ストーリーテリングで広がる3つの無限の可能性

「物語」は、人類を他の動物たちと決定的に分ける鍵である。我々ホモ・サピエンスが、チンパンジーやアリ以上に広範で柔軟な協力を可能にしたのは、物語の存在があったからだ。

"We Sapiens rule the world not because we are so wise but because we are the only animals that can cooperate flexibly in large numbers."
(ホモ・サピエンスが世界を支配するのは、賢いからではなく、大規模かつ柔軟な協力ができる唯一の動物だからである。) 出典:Yuval Noah Harari, Stories: Unlimited Connections

チンパンジーやネアンデルタール人が20人から150人程度の群れで生活していた一方で、ホモ・サピエンスは数百万、時に数十億という規模で協力する力を手に入れた。その秘密は、他者との直接的な絆ではなく、物語を介した間接的なつながりにある。

フィクションがもたらした革命

約7万年前、ホモ・サピエンスの脳と言語能力に進化が起こり、人間は「物語」を創造し、共有できるようになった。これにより、直接の知り合いではない他者とも協力する基盤ができた。

"What enabled different bands to cooperate is that evolutionary changes in brain structure and linguistic abilities apparently gave Sapiens the aptitude to tell and believe fictional stories and to be deeply moved by them."
(異なる集団が協力できるようになったのは、脳構造と言語能力の進化によって、ホモ・サピエンスがフィクションを語り、信じ、感動する力を手に入れたからだ。) 出典:Yuval Noah Harari, Stories: Unlimited Connections

物語の威力は絶大だ。同じ物語を信じるだけで、1.4億人のカトリック教徒が「家族」として結ばれ、8億人がグローバル経済のネットワークで結びついている。

スターリンとブランド化の真実

物語の力は、製品だけでなく個人にも及ぶ。ソビエト連邦を象徴する「スターリン」は、単なる個人ではなく、新聞や肖像画を通じて創られた神話だった。

"Stalin is Soviet power. Stalin is what he is in the newspapers and the portraits, not you, no—not even me!"
(スターリンとはソビエトの権力そのものだ。スターリンとは新聞や肖像画に描かれた存在であり、君でもなければ、ましてや私でもない!) 出典:Yuval Noah Harari, Stories: Unlimited Connections

これは現代の「ブランド化」に通じる。SNSでフォロワーを数億人持つインフルエンサーも、多くの場合、プロが作り上げた「物語」に過ぎない。

宗教と歴史の中の物語

物語は宗教や文化の基盤でもある。たとえば、イエス・キリストという人物は、2千年にわたる物語によって再構築され、もはや実像を取り戻すことはできない。

"By gaining all those believers, the story of Jesus managed to have a much bigger impact on history than the person of Jesus."
(無数の信者を獲得することで、イエスの物語は、イエス本人よりもはるかに歴史に大きな影響を与えた。) 出典:Yuval Noah Harari, Stories: Unlimited Connections

キリスト教の物語は、個々の信者を「家族」として結びつけ、信頼のネットワークを構築した。

主観と客観、その間にある「物語」

物語は、現実の新たな層を創造する。「主観」と「客観」の間に「間主観的現実」という次元を生み出したのだ。

"Some stories are able to create a third level of reality: intersubjective reality."
(一部の物語は、第三の現実—間主観的現実—を創造することができる。) 出典:Yuval Noah Harari, Stories: Unlimited Connections

例えば、ビットコインや通貨の価値は、物語によって形成される。「ある物に価値がある」と信じる人数が増えれば増えるほど、その価値は高まるのだ。

物語の未来

物語の力を正しく理解することは、人類の未来を形作る鍵である。物語がなければ、我々のネットワークは小規模で終わり、文明もここまで発展しなかっただろう。しかし、その力を誤用すれば、現実とかけ離れた幻想に支配される危険性もある。物語は、人類最大の武器であり、最大の弱点でもあるのだ。

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