塚谷裕一『変わる植物学広がる植物学 モデル植物の誕生』(東大出版会)
三浦しをん『愛なき世界』を読んで、感想を書いた後(https://note.mu/eneo/n/nf6a5a9e2a263)、知り合いから、『変わる植物学広がる植物学』を勧められたので読んでみた。『愛なき世界』の中で、主人公本村が研究テーマとしている植物シロイヌナズナについて扱っている本で、シロイヌナズナについての理解が深まるかな、と思って読んでみたが、なんだかそういうことではなかった。
これは2006年10月に刊行された本なので、三浦しをんの小説とは直接は関係はない、一方、塚谷先生は、『愛なき世界』の謝辞の冒頭に出てくる方で、つまり、小説の中の松田先生のモデルは塚谷先生なのかしらん、と思ったりしながら読むことに。
しかし、この本は誰をターゲットにした本? 出版社は東大出版会。これから生物学研究を志す若者に読んでほしくて書いたのか? モデル生物の説明のくだりなど、『愛なき世界』を読んだ後で読む一般読者にも共感できる部分もあるのだが、基本的には遺伝学の基礎知識を持った人でないと理解できない記述が多数。例えば川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)とか、前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)みたいな読み物をイメージして取り掛かると(つまりそれが自分のアプローチだった)肩透かし、というか寄り切られて押し出し、みたいな状態になってしまうのである。読んでも読んでもわかんない、という部分を朦朧と読みながら進む。
ジェネラルな教訓としては、視界を広げて研究せよ(論文を読むにせよ、研究テーマを検討するにせよ、あまりに至近距離にだけ目をやって、世のトレンドとかジャンルの全容とかを把握しない状態で、作者の場合なら植物だけを見て研究を進めるようなことにならないよう、常時目配りをしながら自分のやりたいことを見つけよ、ということであった。俯瞰、と言えばいいのだろうか。論文情報の拾い方とかは、大昔に図書館情報学の授業で習ったことが断片的に出てきて、興味深かった。
表紙がシロイヌナズナなので、もっと、本村の地道な努力を親身に感じられるかな、と思いながら読んでいたが、本村自身が学部時代に大腸菌の研究をしていたのが大学院で植物学の研究に従事した、というキャリアも、決して特殊ではないこと、植物も大腸菌もショウジョウバエも、アプローチの仕方で、等しく研究対象と出来る、ということをこの本を読んで知った。でも、遺伝学について理解出来てない時点で、わたしはお呼びではないんですけどね。この本の刊行から13年たって、塚谷先生は何を研究しているんだろう。
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