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100円で食べられる蕎麦屋「寄席御手」
蕎麦が100円で食べられる。
「おいッ! 蕎麦が100円だとよ!」
「うっわ! 安いですね〜〜!」
(いいですね〜〜!)
先輩から、そんな話を聞いて僕は銀座にある蕎麦屋「寄席御手(ヨセミテ)」にいった。(後できいた話だと、店主の趣味が狩猟で、店の名前はヨセミテ国立公園の動物の肉を提供しているからとのこと)
ガララ……。と引き戸を開け、暖簾をくぐる。無愛想な店主ひとりと、客はまばら。
僕は「そばをひとつ!」と注文すると「券売機で、そば券をお求めください」とだけ素っ気ない返事がかえってきた。
無愛想な店主の言うとおり、券を購入。
そば券は確かに100円。
他にも「天ぷら」「トロロ」などあるが、トッピングで利益をだしているのかな。
しかし、このあと僕はトッピングどころではない、思わぬ出費をしてしまうのだった。
「発券代、20円いただきます」
「ーーえっ!?」
何かの聞き間違いかな。
「お客さん、聞こえませんか?発券代。いま蕎麦券を出したでしょう?」
「は……はあ!?」
(機械が券を出したのに、これにお金をとると言うの!?)
無愛想な店主が手のひらを差し出している。(えっ、何これ。発券代かかるなら120円で一緒にしとけよ……。なんで手渡しなんだよ!)
「あったかい蕎麦でいいよね」
「……はあ。それでいいです」
モヤモヤしたまま120円となった蕎麦を待つと、厨房の裏から「チン!」とレンジのような音が聞こえ、店主がお盆を持って現れた。
(嫌にはやいですね)
そんな言葉が口から出そうになるが、我慢。すると、店主からさらにとんでもない一言が飛び出した。
「提供料金いただきます」
(はあああ!?)
「蕎麦の提供料金です」
提供料金とは、器代50円、割り箸代20円、お盆代30円。
「あの……お水はセルフとありますけど……」
「水は100mlで50円」
「まさか、調理代はとりませんよね」
「ああ、ウチは調理代は無料だね」
「……………………水、欲しいんですけど。グラス置いてないんですか」
「厨房にあるのが見えませんか?」
「あの……、もしかしてあのグラスも……」「グラス提供代は50円」
また手を出している。
殴りたくなってきた。
蕎麦は既に220円蕎麦になっているし、水まで汲んだら320円以上いってしまう。
「水飲みますか、飲まないですか」
「飲みますけど、190mlも50円です?」
「ああ、うちは端数とらないよ」
じゃあどこの店が端数とってんだ。
……だが端数は切捨てと聞いた僕は、ぎりぎり200mlにならないようグラスに注いだ。こうなってくると少しでもコチラの利益を取ろうと動いてしまう。
「……はい。これで水が100円ですよね」
「いえ、180円です」
「はあ!?なんで!?」
「グラス提供代50円。水が50円。ウォーターサーバー使用代80円のしめて180円になります」
……ついに400円蕎麦になってしまった。
いや、消費税別だろうから432円か?
そんなことを考えていた時期がまだ幸せだったのだ。
「あの……、頼んでもいない『大根のお浸し』がきているんですけど」
「あんた日本人?『お通し』知らないの?」
お通し代400円
……いや、税別なので432円だ。
864円蕎麦になってしまっている。
ただのトッピングなし蕎麦が……。
繰り返すが、こうなってくると少しでもコチラの利益を取ろうと動いてしまう。
僕は大根のお浸しを蕎麦にかけ、大根蕎麦にして食べた。味は、想像どおりだ。
良くも悪くも。
「ごちそうさまでした。もう来ません」
「ありがとうございます。深夜料金200円、席のリザーブ代400円いただきます」
「はあ!?」
とうぜん、税別!
「あとですねお客さん。麺つゆ代、薬味代、割り箸代がかかってます」
「割り箸代払ったでしょう!」
「右は払ってもらいましたが、左がまだですね、両方使ったのを覚えてませんか?」
はいはい。何か言ってるよ。
結局1800円以上もかかってしまった!!
いや、ここまでくると怒りを通り越して清々しくすらもある。
僕は店主の顔面に重めのパンチをいれた後、金を払わずに店を立ち去った。
あんなアコギな商売をしているくせに、バックに筋者がいないのだからおかしなはなしだ。
ーー後日
「先輩……、あの蕎麦屋いきました?」
「ああ、行ったよ。お前も行った?マジで100円で蕎麦食えるんだな」
「……先輩、本当に行きましたか? 100円で蕎麦食べました?」
「ああ、100円だったよ」
なんと、なんと、なんと。
先輩は本当に100円で蕎麦を食っていたのだ。
「お前、テイクアウトしなかっただろ。あそこ発券するだけで20円とかぬかすから、アプリで注文して、取り行くんだよ」
ーーテイクアウト!!
その情報最初に聞きたかった!
確かに確かに、お通し、リザーブ、深夜料金まで封じられる!
「あとよ。器と、箸と、麺つゆ忘れずに持っていけ。そうすりゃ『提供料金』とかふざけたのとられないからな」
「は……。はあ……」
「あ! そうそう、ウーバーイーツでもこの店注文できんだよ! その場合でも提供料金無しなんだぜ」
「ウーバーイーツ?」
「アプリで注文して、配達員が届けてくれるアレだよ! いま注文してやるよ」
ーー数分後。
「おまたせしました!」
「お、早いな。さすがにレンジであっためただけ」
「はは、そうみたいすね」
談笑する配達員と先輩。
だが僕は……。
先輩のアプリ画面をみて、頭に血が登っていた。
「おい! なんだよ配達料って! こんなのがかかるのかよ!」
「あ、はい。配達料、普通にかかります」
「じゃあ配達料かかるとして、なんだよこれ『チップ』ってなんだよ! ここは日本だし、僕は日本人だよ? あんたアメリカ人!? ユアーアメリカンヒューマン!?」
「お、おい! 暴力はやめろ! おい!!」
あんな経験をした後での出来事。僕はノイローゼになってしまっていた。