外国語学習者は騙されやすい?
海外旅行者で騙されやすいのはどういう人であろうか?
現地語を全く解さない人?
それとも現地語をある程度話せる人?
答えは意外かもしれないが後者なのである。
ちょっと考えてみればすぐ分かることだが、騙すという行為は基本的には言語を用いない成立しない。
相手を誘導するには一定のロジックが必要であり、つまり騙したい方とそのターゲットは、意思の疎通ができなければ根本的に騙すことも騙されることもできないのである。
しかしこう思う人もいるかも知れない。
言葉が分かれば相手が騙そうとしているのも分かるのではないか、と。
しかし現実はそう甘くはなく、外国語に堪能になればなるほど、人は現地語に騙されやすくなるのだ。
これには「外国語学習の落とし穴」が関係している。
外国語学習は、そもそも対話者を理解するために行っている。
なので、外国語学習の過程には基本的に相手の言っていることを嘘かどうか疑うという行程は存在しない。
外国語の教科書は基本的に嘘のない世界であり、善良で正直な人達の会話しか出てこないのだ。
しかも学習中は
聞き取れない=不正解
聞き取れた=正解
という「テスト」を反復して行うため、相手の言っている事が聞き取れた時点で正解にたどり着いたと認識してしまう様になる。
これが災いして、相手の意志を理解した時点で疑うことなくそれを信じてしまうという罠に陥ってしまう。
なので「ついてきて欲しい」と下手な理由で誘われてもノコノコとついて行ってしまうし、「お金がないので恵んで欲しい」と言われればアホみたいな理由でも信じてお金を渡してしまうのだ。
あたり前のことだが外国人も嘘を付くのだ。
「インディアン嘘つかない」というのはテレビCMの中だけの話だ(古くてすみません)。
この「外国語学習の落とし穴」を回避するには、例えば旅行者であれば旅行スキルとして怪しいシチュエーションを事前に頭に叩き込んでおき、言語を介する前に「危険な状況」として思考停止して拒否するしかない。
これは旅行以外のことに関しても大体同じである。
例えば商売をしていても、現地語を話せる日本人スタッフは意外と危うい。
私自身そうなのだが、中国人と商売していて問題が起きた時に
「〇〇だから仕方なかったんだよ」
と言い訳されてしまうと、一瞬「そうなのかあ、大変だったな」と疑いもなく信じてしまいそうになる。
やはり相手を理解するために中国語を学習したという癖が中々抜けないのだ。
日本語で持ちかけられたら「そんな上手い話があるわけない」と一蹴出来るような儲け話も、やはり一瞬「ええ!そんな良いことがあるの!」と喜んでしまう。
実に危ない。
なので、弊社の会長は敢えて中国語を勉強しない。
中国との商売を何十年もやっている業界の古参であるが、それでもずーっと中国語を勉強しないできている。
私は最初それを頼りなく感じたが、会長の通訳を度々やるにつれ、会長は一度通訳を通して相手の言葉を聞くことによって、冷静且つ公正に相手の言っている事を理解しようとしているのだということが分かった。
なんという深慮遠謀であろう。
決して怠けていたわけではなく、敢えて勉強していないのだ。
(その証拠に、会長は実は中国語の数字だけはバッチリ理解している事が後々判明した)
私はもう中国語を話せない自分に戻ることはできないが、会長の薫陶を受けて、商売をする上では相手の発言を一度疑うように心がけるようにしている。
勿論友人と話す時はそんなこと気にしないが、外国語を習得した後に話す相手は必ずしも友人になれる人ばかりではないことを心の片隅に留めておいて欲しい。
※文中で「外国語学習の落とし穴」という言葉がさも存在するかの様に書いていますが、私の造語です。すみません。