時代と生き様
時は西暦2200年の7月頃。僕はいつものように高校に通っていた。女子友達の平田珠理奈(ひらたじゅりな)という名前の子と一緒に。彼女とは住んでいる家が近く、父親同士も仲がいい。
今日は月曜日で、今は朝の7時ちょうど。僕は携帯電話のアラームで目覚めた。
名前は海馬澤誠二。鉄筋コンクリートの二階建ての白い家に住んでいる。両親は離婚をしていて、父と妹と祖父母の5人暮らし。母は別な男性と父と別れてすぐに籍を入れたらしい。どうやら母は浮気していたようだ。離婚する前は夫婦喧嘩が毎日で父は疲れ切っているように見えた。
父と平田家の父は一緒に釣りに行く程の仲だ。たまに、僕と珠理奈も着いて行く時がある。それぞれの親達に誘われて。主な釣りをする場所は海。川で釣りをしたことはあるが、結構難しい。海釣りも簡単ではないが。船釣りも父と平田家の父、僕と珠理奈の4人で連れていってもらったことがある。でも、僕と珠理奈は船酔いしてしまって、彼女は海に嘔吐していた。僕は、我慢したけれど。それ以来、船釣りは父同士だけで行くようになった。勿論毎回、漁師が着いて来てくれる。
朝食は祖母が作ってくれている。高校三年の僕と高校一年の妹、それから父の分の弁当、1日3食の食事を家族5人分。これら全てを祖母が作っている。きっと大変だろうと思う。母がいなくなってからずっとこんな感じだ。
僕は密かに思っていることがある。それは、母に会いたい、ということ。でも、それを父に話したとしても、父は母を恨んでいるだろから、会ってこいとは快く言わないだろう。なんせ、父を裏切った人だから。妹の明日香はどう思っているのだろう? 学校から帰ってきたら訊いてみよう。
今は朝7時30分頃。僕はシャワーを浴びた。それから明日香も浴びた。その間に僕は朝食を食べた。スクランブルエッグとウインナーを焼いたもの。それと、ネギの味噌汁と茶碗に半分くらいのご飯だった。皆同じメニューだ。シャワーから上がってきた明日香も制服に着替えて朝食を食べていた。僕は妹の明日香が大好きだ。素直で明るいし、見た目も可愛い。実の妹にこんなこと思うのはヤバイのだろう。でも、そう思うのだ。明日香はきっとモテるだろうなぁ……。我が妹ながら、めっちゃいい子だから!
朝食をとったあと時計を見ると8時くらいになっていた。8時30分には出発しないと間に合わない。9時までには行かないと。
僕は平田珠理奈に登校する用意ができているかどうかLINEしてみた。5分くらいで返信が来た。
<OKだよ!>
なので、珠理奈の家に向かった。
「行ってきまーす!」
と、家族に声を掛けた。妹は自分の部屋にいるようで、姿が見えない。たまに時間が合えば、僕と珠理奈と妹の3人で登校する時もある。でも、今日は珠理奈と2人のようだ。父は朝5時30分くらいに毎日仕事に行っているから既に家にはいない。祖父母は、毎日「行ってらっしゃい」と言ってくれる。温かい家庭だと思うが、母がいないのがやっぱり寂しい。明日香には帰宅したら訊いてみよう、母に会いたいかどうか。やっぱり、朝はじっくり訊く時間がない。
帰宅してみると明日香はすでに家にいて、僕は妹を2階に呼んだ。
「明日香、ちょっと2階の僕の部屋に行ってくれないか?」
不思議そうな表情で僕を見ている。そして、
「わかった」
と素直に応じてくれた。僕も2階の自分の部屋に向かった。
妹は僕の青い座布団に正座している。僕は絨毯にあぐらをかいた。
「明日香はお母さんに会いたいか?」
急に質問したからか明日香は驚いた表情だ。
「え? どうして?」
「いや、どう思ってるかな? と思って」
「まあ、会いたくないと言ったら嘘になるよね」
「そうか、わかった。僕も同じ気持ちだよ。よかった。話はそれだけだよ」
そう言って僕らは居間に戻った。
翌日。玄関を出てみると、太陽の光が眩しい。「今日も暑くなるのか」と思うと、嫌になってくる。何が嫌かって、汗をかくのが嫌だ。
物置小屋から黒い自転車を出し、少し走った。
道路の右側に珠理奈の家はある。黄色い壁でグレーの三角屋根で平屋だ。
彼女はこの日照りの下で僕を待っている。相変わらず明るい笑顔でこちらを見て手を振っている。黄色っぽい半袖のブラウスで、膝丈のブルーのチェック柄のスカートを履いている。紺色の靴下で黒い革靴を履いて白い自転車を支えて立っている。僕も笑顔で手を振り返した。
「おはよう!」
僕が挨拶をすると、
「おはよう、誠二!」
彼女も挨拶した。いつものやりとり。
「めちゃくちゃ天気いいね! 刺さるわ、太陽の陽射しが」
僕がそう言うと、
「そうね! 刺さる」
と、笑いながら珠理奈は言った。どうやら「刺さる」がウケたようだ。
時刻は8時45分頃。僕達は学校に着いた。校門の前で、体育の教師とすれ違った。こちらを見ながら、
「相変わらずお前らは仲良しだな」
と、言ってきた。
珠理奈は黙っていた。僕は、
「そうなんですよ。幼馴染ですから」
負けずに言い返した。その教師はフンッと鼻を鳴らしながら生徒の制服のチェックのため、正門の前に行った。僕は、珠理奈に近づいて、
「相変わらず感じ悪いよね、田口先生は」
言うと、
「まあ、そうだね。評判も悪いし。あんまり気にしない方がいいと思うよ」
珠理奈は言った。
確かに僕は気にし過ぎかもしれない。彼女が言うのだから間違いないだろう。長い付き合いだから僕のことはよく知っている。友人達も僕が珠理奈と仲がいいということは知っている。でも、仲がいいだけで恋愛感情は特にない。それは、彼女も同じだと思う。珠理奈には何でも話せる。
以前、中学2年の頃、僕に好きな子が出来て相談に乗ってもらったことがある。その時、珠理奈の優しさに触れた。いい子だなぁ、と実感した。でも、僕には好きな子がいたので珠理奈に恋愛感情を抱くことはなかった。結局、その子にカミングアウトしたけれど、フラれた。まあ、仕方ないと思うしかないと思ったので、潔く諦めることにした。
そんなこともあったなぁ、としみじみ思う。
*
近未来と言われる昨今。22世紀の今はロボットが発達し、人間とロボットが結婚する時代だ。子どもも作れる。僕と珠理奈は高校を卒業し、大学2年になった。それぞれ違う大学に通っている。講師もロボットがやっている。本格的なIT時代だ。
僕は珠理奈と家は近いものの、前のように頻繁に会うことはなくなった。噂では彼氏ができたらしい。僕の父が、「男と歩いていたぞ」と、言っていた。何だか先を越された気分。僕も彼女が欲しい。周りの同級生はロボットと付き合っている。ロボットかぁ、人間がいいなぁ僕は。そういえば、ネットで見たけれど、異性の人間か異性のロボットのどちらかを選べるイベントがあったのを見た。そういうので出逢えるんだなと思う。でも、一人暮らしは何かとお金がかかる。僕は大学生で、父の仕送りで大学に行かせてもらい、生活もしている。だから、貧乏だ。大学に行っても出逢いはあるがなかなか恋にまで発展しない。どうしたらいいんだ。焦ってもだめだな。僕はまだ若い。青二才だ。だから、勉学に励み、アルバイトも出来たらもっと楽な生活になるかなと思う。地道に頑張るしかないな。
自分なりに結論を出したので、そのように生活していこうと思う。だから頑張るしか道はない。たまに現実から逃げたくなる時もあるけれど、それは無理な話し。
妹の明日香のことは変わらず好きで、彼女も「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と懐いてくれる。明日香に好きな男子はいないのかな、気になる。
*
今は夜8時頃。明日香に訊こうと思っていたことを訊いた。
「明日香」
「うん? なあに?」
「お前はお母さんに会いたいか?」
「……うーん、会いたくないと言えば嘘になるけれど、正直会いたいよ。お兄ちゃんは?」
「そうだね、実は僕も会いたいんだ。でも、お父さんがいい顔しないと思うんだ」
「まあ……確かにね……」
「うん、だからお父さんには言いにくい」
「別にお父さんに言わないで会いに行ってもいいんじゃない?」
「うーん……。どうなんだろ。もし、お母さんがお父さんと話した時、この前子ども達に会った、なんてことを言ったらまずいのではないかと思うよ」
僕は真剣になって明日香と話している。これから先、僕や明日香が結婚する時になって父親としか交流がなく、母親とは会っていないとなったら結婚相手やその親はどう思うだろう。まだ、先のことかもしれないが僕はそう考えている。
時代が進むにつれ、ロボットが主体となり人は徐々に必要なくなるだろう。だから、人間が働くところも自然と減るはずだ。そう考えていくと、僕は将来働く場所があるのか不安に駆られることがある。でも、大学は辞めようとは思わないし、妹だってきっと大学に行きたいと思っているだろう。
僕の考えでは、大学を卒業し、就職して結婚して子どもを儲け、子どもの成長を見届け子どもも結婚し、孫が出来て余生を送る、という感じだ。まあ、必ずしも考えた通りいくとは限らないけれど。でも、誰と交際して誰と結婚するかは全くわからない。僕と2つしか変わらない妹の明日香はそういうことを考えたことはあるのかな。上から目線のような気もするけれど、実際に僕は明日香の兄だし、少しくらいその威厳を見せつけてもいいだろう。まあ、偉そうに言うことは自分の心の中に秘めておくことが多い。
先のことはどうなるかわからない。でも、がんばっていればいずれ華は咲くと思う。がんばるしか道はない!
妹の明日香のことは好きだけれど、性の対象とか恋愛感情があるわけではない。妹だから、明日香の容姿や性格がいいから好きということだ。
これからのことは焦らずじっくり考えながらやっていこう。家族のこと、僕の将来のこと。人生は長い、ゆっくりどっしり構えて、わからないことは自分で調べるなり人に訊いたりして解決していこう。僕はすぐ一人で悩む傾向があるから周りの力も借りることにする。
母に会うのはもう少ししてからにしようと思っている。やはり、父の承諾なくては会いづらい。
それと僕には、こういう仕事がしたいという夢や目標がないから、それも見つけていこうと思っている。