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2年半という歳月
一般的な会社で2年半働くって聞くと特段特別な事ではないと思う。ただ警備員という職業はちと特殊で、土木現場や通信現場は常に場所を変え工事をする。
俺が今日終了した建設現場で2年半っていうのは結構な歳月だったと思う。
常に搬入車両が来て誘導をする関係で常に外にいる。必然的に近所の方達から声をかけてもらえたりもする。
俺の性格上、人と接する事には慣れてる、昔から接客業をやっていた経験は遺憾無く発揮されていると思う。そして元々持ってるサービス精神が勝手に全面に出てしまうので仲良くなってしまうのだ。
2年半の歳月は近所の方達にとっても長い時間だったと思う、時には叱咤激励をもらう事もあった。
現場の常駐が終わると告げられたのは4日ほど前の帰り際、そこから近所の方々へは常駐が終わる事、単発でやる外構工事にはまた来ると告げるとほとんどの方が「寂しくなる」と言われる度に少し不思議な感覚だった。
俺の個人的感覚だが警備員は工事が終われば当然いらなくなる、いずれはいなくなるもの。工事の騒音や通行止め、迷惑ばかりかけて来たのにいなくなると寂しい?なんでだろう?と思ってしまう。
そんな気持ちで最終日を迎え、毎日挨拶している方々ほとんどの人がわざわざ足を止めてくれて今生の別れのようにありがとうと言われ、いやいやまだ来ますからと交わしていたけど、グッと来る事が2度あった。
一つは現場の近くにある保育園に通っている男の子、お父さんにいつも抱っこされたり、肩車されながら向かう甘えん坊の少年。
そんな少年のお父さんには一昨日の時点でそろそろいなくなりますと告げていた。そうしたらその晩、男の子は家で泣いちゃったそう、今朝もなんか泣きそうな顔しながら「今までありがとう」って言われ、「こちらこそありがとう」と言ったけどこっちが泣きそうになってしまった。
もう一つは近所に駐車場を持つおばあちゃん、工事の影響で結構な迷惑をかけた、何度も謝りに行ったりしたけど俺が行くととても笑顔で対応してくれ、会う度に必ず声をかけて気遣ってくれる人だった、80を超えてるとは思えないほど元気でアクティブなおばあちゃん。
そんなおばあちゃんは何も用意出来ないけどお手紙をと言っておしゃれな封筒のような物をくれた。
しかし見てみたらなんと現金、いやいやいやこれは流石に受け取れないよと返そうとしたら
「あの世には現金持って行けないから、遠慮なく受け取って」と言われなんで返していいか正直わからず固まってしまった俺を見て大笑いしていたおばあちゃんを見て泣きそうになってしまった。
「長生きしてね、お身体には気を付けて」と告げると「心配ならたまには遊びに来てね」といつもの笑顔で去って行った。
生活の為に、生きていく為に働く、料理を辞めた後、何もない俺には選択肢が少なく、警備員になった。
警備員人生も来年で7年、そんな俺が初めてがっつりと建設現場に入り、建設現場初心者に2年半のクラスの現場はかなりしんどいと聞いていたが本当にしんどかった。正直何度も投げ出したくなった事もあった。
しかしあの現場は貴重な経験を沢山した、近所の方々もいつも笑顔で挨拶してくれて、作業員さん達もみんな良い人ばかりだった。前にも書いたが俺は本当に人に恵まれている。
2年半は本当にあっという間だったな、次はどこへ行くのだろう?また良い現場に出会えればいいけど、しばらくはふらっと単発現場ばかりになるだろうな。