春の予感と耳打ちと
何かを始めよう、今年は必ず成し遂げようと計画していて、その計画がなかなか自分の思惑通りに進まなかった。
目論見がある時に限って、全く関係ない事々に時間をとられて、というよりは、
他者によってその目論む計画から私自身の気持ちを外させるように、仕組まれているのではとも思えることがある。
道路を挟んですぐお向かいの実家にすら、顔を見せる時間がなく、せわせわとした日々が続いていた。
姉からラインが飛んでくる。今日、出社前に玄関まででよいので寄るように。
排雪が進まずグチャグチャ道路を、用心しながら歩き、朝、実家に立ち寄ると、
姉が耳打ちした。
「ベリーさんと、F君と、V君が、昨日、1人ずつ来たのよ。
なーちゃんは聞いてないと思うけど、今、外部に出てるでしょう、、。
あのね、三人は味方よ!!
なーちゃんの味方。揺るぎない味方!
それと、太郎さんにも今朝、電話で1時間くらい話していたみたいよ。」
父は今日は家にいるはずで、姉は耳打ち話が終わると、
「あら!!なーちゃん、、道路汚いから気をつけてね、、!
バスで行くのでしょう、、傘も持ってね!」と大きな声で。
父の部屋は和室なので、立ち聞きが出来ない。廊下に立つと影が映るので。姉は多分、お茶を持って行ったり、お昼時になったら、軽食を作って運びながら、呼ばれた3人の反応を見たのだろう。
夫の太郎さんからは、父との話の内容は朝のうちに連絡が来て知っていた。
大きなお金が動き、人も必要になる計画としたら、熟慮に熟慮を重ね、計画の内容の細部までチェックし、利益有りと見込まれなければ、オーケーサインは出せないだろうけれど。
もう3月なのに、、3月だって、終わっちゃうじゃない、、なんなの、、
お正月から話していたのに、
あっちこっちと、外部に私を出させて、、
プン!プンとしたいところではあっても、、社外に出ての仕事なので、約束時間に間に合わせなければならない。急ぎ足でバス停に急ぐ。
バスの中で、姉にありがとう!とラインを送ると、
「仲間4人が、しっかり結束している、大丈夫よ!!
とくに、V君は頼もしい!
頑張りなさい!」
とすぐ返信があった。
家族の中や同じ社内で、敵、味方など口にしたくはないけれど、小さな会社ならば、派閥もあるし、何かをしようとすると必ず敵は存在する。保守的とか以前の問題で。
バスに乗って、目的の会社までは、約1時間。うとうとしながら、自分にとっての味方は、姉ではないかと思いついてしまった。
姉であって母のように、幼い頃から面倒をみてくれた姉。
大学を卒業すると、まもなく結婚して、目立つことが嫌い、家庭にいたいと、その選択の仕方は、あっさりしていて清々しかった。
専業主婦であり3人の子がいて、実家の忙しい家事万端を処理してくれている。
姉は自分と性質の違う妹の私を常に支えて応援してくれていた、そして、多分、両親より私の才能を信じていたのではと。
姉夫婦のマンションの処理について、また、姉夫婦の株の管理を全て私に一任している。
姉は専業主婦でありながら、毎月、数十万の収入がある。
毎月家賃収入や投資の利益を姉の口座に振り込むと、決まって、ありがとうと丁寧なメールが届くが、姉は年の離れた妹を信頼しているからこそ、自分の資産を預けるのだろう。一度たりとも口出しをしたことがない。
家族だもの、敵も味方もないはずだけれど、事業を為している家族ならば、
何か新しい事業展開をするとなると、反対する向きも出てきて当然であって。
近日中に、父は重役達と協議して結論を出すとか。
姉の耳打ちに、今日は鬱屈していた気分が晴れた。晴れたついでに、隣町まで迎えに来てくれたV君に、ありがとうね!と、真面目にお礼を言う私でしたが、
「おっ!!珍しいな! 何の礼だ?!
じゃじゃ馬お嬢さんの子守りにも慣れた、、
ついでだから、とことん付き合ってやろうじゃないかと腹をくくったんだよ!」
憎たらしい物言いは変わらないけれど、
姉の言葉を信じる。V君が頼もしい!
と。
まだまだ雪世界の北国にも、空気の匂いは春になってきている。
柔らかい春の匂いに。