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惣菜や冷食に頼る罪悪感とメンタルヘルス

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#言い訳」です。

子どもが生まれてから、惣菜や冷凍食品に頼る機会が増えた。利用するたびにふんわりとした後ろめたさのようなものがあって、なんだか言い訳したくなる。しかし冷静に考えて思う。それの何が悪いんだ?

とりあえず、出来合いのもののほうが手作りよりお金がかかりやすいのは確かだ。調理を委託しているぶん、料金が上乗せされるのは当たり前である。

でも、いまどき手作りだって節約するには限度がある。安い食材を探し回る手間も馬鹿にならないし、中途半端な量を残して廃棄でも出せば、余計なコストがかかるし気持ちもよくない。

ましてや我が家は絶賛子育て中である。2歳の息子はもっぱら揚げ物とパンが大好きで、昨晩もコロッケとバターロールをもりもり食べた。ふりかけごはんはギリギリ食べるが、気が乗らなければ大抵のごはんは見向きもしないか、一口だけ食べて吐き出す。その一口を飲み込んでくれれば御の字だ。

そんな状況で作れる料理は限られている。例えばカレーは食べるが、辛口のカレーは食べられない。好みの問題ではなく、痛くて食べられないのだ。では子どもが食べられるようにと刺激控えめの甘口カレーを作れば、大人が満足できない。大人用と子供用を分けて作るのも何度か試したが、めんどくさくて作る意欲自体が失せてしまう。

そもそも、甘口のカレーを食べるかどうかも彼の気分次第だから、食べないリスクのある料理をする気になかなかなれないというのが大きい。子どものごはんは諦めて、開き直って大人が満足のいく料理を作るという手もある。しかし、ただでさえ時間がない中で自分の満足のために時間を割くことに抵抗を感じてしまう。だったらやらなくていいか、となる。

そんなわけで自炊そのものがおっくうになり、子どもの機嫌に合わせて複数のおかずを用意しやすい惣菜や冷凍食品を選びがちになる。これは仕方のないことだ。頭ではそう思っているのに、どうして後ろめたさがつきまとうのか。この現象は私の個人的な葛藤にとどまらず、5割弱の主婦・主夫がレトルトや弁当に頼ることに罪悪感を抱いているとの報告もある。

一般認識として、家で炊事を担当するものが料理をしないことへの批判の声は根強く、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」のような意見もいまだに散見される。この件における高齢者のように直接声に出さないまでも、「1日中家にいるなら1品くらい作れたのでは……?」などとほんのり考える人は少なくないと思う。本人にそのつもりはなくとも、こうした価値観が無意識のうちに刷り込まれ、苛まれているケースが少なくない。

私の場合、指摘してくるのは通りすがりの誰かではなく、未来を見据えた自分だ。「自分で作ればこれくらい節約できたんじゃない?」とか、「自分で作ったほうがもっとおいしいごはんできたんじゃない?」といった心のささやきが絶えない。自分自身が、未来に悪影響を及ぼしかねない今の自分の行動を見過ごせず、チクチクと刺してくるのである。

彼(未来を見据えた自分)の気持ちもわからないではない。将来、自分へ確実に悪影響を及ぼす相手が甘ったれたことをしていたら、ちょっと苦言を呈したくもなるだろう。私だって、できることなら息子に手作りの飯を食わせたい。しかし作っても食べないものは仕方がないし、現状、元気に走り回れてるのだからそれでいいじゃないか。

未来を見据えた自分は、自分にとって都合のいいように物事を見過ぎるところがある。今の自分が頑張れば頑張るほど将来的に楽をできるから、普段の頑張りを軽視して、もっともっとと自分に鞭を打つ。しかし今の自分がやりすぎたときに大変な思いをするのは、結局未来の自分なのだ。

未来の自分を優先しすぎると、今の自分が未来の自分の奴隷のようになってしまう。すると、今の自分の不調を無視して頑張ることになり、心身に不調を来しやすい。反対に、今の自分を優先しすぎると、踏ん張りが効かないので長期的な目標を達成しづらくなる。それでは困ると、今の自分を犠牲にして未来の自分のために頑張れる人たちが、心身を擦り減らしていく。

身もふたもないことを言えば、そもそも未来の自分なんて現実には存在しない。存在しない人格を想定して、存在しない人格のために努力して、場合によって死ぬほど辛い思いをするだなんて、馬鹿げている。結局、今の自分が「楽がしたい」と言っているのならそれがすべてなのだ。誰に言い訳するまでもない。

……なんて、それで心の声を黙らせられるなら苦労はしないのだけれど。なかなか開き直るのは難しいが、自分自身の指摘に耳を傾けながら、今日も我が家では出来合いのコロッケを温める。

文:市川円
編集:アカヨシロウ


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