読書メモ Phantom (羽田圭介)
この本の概要を読んだときに、ちょうど自分にとってタイムリーな内容だったので、自分のお金の価値観が少しでも明確になるといいなと思いながら読み進めましたが、読み終わってみて、あまり明確になった感じはありませんでした。
コロナの情勢や老後2,000万円の報道が話題になり、自分の周りにも当たり前のように投資の話題が増えてきていました。
資本主義社会の中で富を増やすためには、資本家のポジションを取ることが絶対的な攻略で、周囲の多くが資産を増やすために投資を始めています。
では、なぜ資産を増やすのか?その目的については、自分も含めて大抵の人が、将来お金に困りたくないからとか、仕事をせずに暮らしていきたいからなど漠然としていて、本書の「PANTOM(幻影)」というテーマになっています。
本書では大まかに上述の価値観と、お金を持っていても意味はなく、経験や行動のために使うべきという2つの価値観が対比して描かれています。
この対比を通して、資本主義社会におけるお金の向き合い方を考えさせられるのですが、自分にとって何を根拠にしてどうすべきであるといった答えには辿り着けませんでした。
個人的には、投資の話題を積極的に持ち出す知人に対して、不快感を感じることが多く、本書の中でも記載がありますが、投資という何も生産せず、生きる目的に直接的に寄与しない行為(のように感じられるもの)に対して、投資すること自体が目的となっているほど人生の時間や労力といったリソースを割いていることに対して、理解できなかったからだと思います。
なので私のような人間ではなく、投資を全肯定しているような人がこの本を読んでどのような感想を抱くのか、とても気になりました。
朝井リョウの「正欲」を読んだときにも思ったことですが、こういった小説ベースだと、他メディアが扱いきれないような鋭い視点を自分の中で反芻できることが、とても心地よく感じます。
自分の中でもやもやっとしていた部分(それにすらも気付けていなかった部分)を言語化して、日常生活で意識して生活するだけでも、だいぶ見えている世界が違ってくるように感じるからだと思います。
物語に没頭することが小説の良さだと思っているけど、物語を読み終わった後の変化の方が自分にとっては重要で、そういう本との出会いを求めているんだと感じます。