ヴァイオリンやヴァイオリンと似た形状の楽器で世界中の音楽を弾くということ
「世界中の」といっても、わたしがメインで演奏しているのはノルウェーの民俗音楽、アイルランドの民俗音楽、東アラブの古典音楽なので、もちろん世界のごく一部の音楽しかカバーしきれていないけれど、「色々弾く」だとタイトルとしてはぼやけすぎるので「世界中の」という表現をしただけで、知っていても手を出していない音楽、知りもしない音楽が世界にはまだまだ山のようにあるし、この短い人生で全部をやりたいとももちろん思っていない。
という長い一文による前置きはさておき、きょうは、最も頻繁にされる質問のひとつである「色々な音楽をヴァイオリンで弾いていて、チューニングも弾き方も違うのに混乱しないの?」という問題に、こたえてみます。
答:時折混乱するし、わたしの理想に到達するにはどう考えても練習時間が足りない。
なのですが!
わたしなりの解決手段をもしかしたら3日前に発見したかもしれない!!
大発見なので、早速公開します!!!
※自分的には超発見で、悩めるヴァイオリニストの方の参考になるのはもちろん、ヴァイオリニスト以外にも応用が効く部分があると思っているから書くのですが、マニアック過ぎて意味がわからなかったらすみません。
きっかけとなった主要な人物が三人います。ここからは時系列で。
●いつもお世話になっている楽器職人Aさん
この職人さんから最近とあるヴァイオリンを購入。その楽器はあまりにも古すぎて縁がかけているせいでいつもの肩当てがつけられなかったのと、肩当てをしないほうが際立って鳴りがよかったので、これまで20年以上使ってきた肩当てをやめようか、ということになった。
↑肩当て:楽器と自分の身体(鎖骨あたり)に隙間ができちゃう人が調整するために使うもの。肩当てにも色々種類があり、肩当てでひとつで音が変わります。つける必要のない体型の人もいる。
数週間試したのち再び相談に行ったら「君がやっている音楽、顎当てもいらないのでは?」ということになった(採用するかは検討中)。
↑後述しますが、顎当てにも色々あり、顎当てでもやはり音が変わります。そしてわたしが演奏しているノルウェーの伝統楽器「ハーディングフェーレ」は顎当てをつけていないケースも多い。
どちらかというとこれまではわたしの身体に合う楽器や奏法を探すという発想のほうが強かったのが、完全に楽器や音楽に自分の身体を寄せていくという発想を与えてくれて、これが今回の「混乱せずに明確に音楽を弾き分ける方法の発見」の導入になった。ちなみに音楽民族学的には、人の身体に合うように楽器を進化させてきたのが西洋的な発想、楽器に合わせて人の形状を変化させてきたのが東洋的な発想です。
(※色々な弾き方を試したせいで、腱鞘炎になったり、鎖骨にコブができたりして、奏者としては結構リスキーな状況なので、すべての方にはオススメしません。あくまでも自己責任で!)
●いつもお世話になっている楽器職人Bさん
肩当てを外して弾くわたしの姿をみて「フレッシュ型の顎当てにしてみれば」とアドバイスをくれた。というのは、わたし、首が結構長めで鎖骨の周りは肉がないので、どちらかと言うと肩当てが必要なタイプなんです。
↑フレッシュ型の顎当てを装着した楽器。この楽器のこと「イケメン」って呼んでたのに、殿感が強くなってしまい、あだ名を変えるべきか、顎当てを戻すべきか、いっそのこと顎当てをはずすべきか迷う・・
今月は色々試してみる期間にしようと思っていたので色々なやり方を試していたのですが、結局レコーディングで使う楽器では肩当てを使ったりするし(楽器の保護&音程の正確さを重視)、アイリッシュパブでのライブやハーディングフェーレとの持ち替えのある演奏では肩当てを使わないほうが便利だからそうするし、、、なんだけれど、一般的には「奏者はひとつの楽器と一緒に成長していくもの。正しいフォームはひとつ。色々なフォームを使うなんてとんでもない。」というのが普通なのに、わたしは何をやってるんだ〜って思って混乱を極めていたわたしにBさんは一言。
「君、色んな音楽を色んな楽器でやってるんだから、むしろ音楽によって肩当てなしでフレッシュ型顎当てにする、肩当てつかって普通の形の顎当てにする、とかしたほうが、むしろしっかり弾き分けられるのでは。その時々でほしい音色も違うんだし。」
●尊敬するアラブヴァイオリニストCさん
リハーサルの時に突然の難関が訪れた。歌手に合わせてキーを変えて、チューニングを全部全音あるいは半音落とすかもしれないという事態が発生したのだ。これを何事もなくこなせる人が羨ましい、わたしにとっては修行が必要な案件、というのは幼い頃からA=440HzとA=442Hzのピアノの聴き分けをナチュラルにしてA=442Hzのピアノを壊れたと表現するぐらいに強い絶対音感があるからだ。Cさんももちろん音感の持ち主、どうやったら絶対音感を無視してチューニングを全部下げられるのかのアドバイスをくれた。
「耳に騙されないで、手で弾く。そのために、どこから何がはじまってもその手の形になるように、指がスムーズに動くように身体に覚え込ませる練習をする。それでも騙されることもあるけれど。」
その時に、わたしはここ1ヶ月考えていたことがすべて繋がって、もやもやがすっと解消されたのを感じました。これまでは、どうしても耳やメンタル優位で音楽をしてきてしまったけれど、身体ということについてもっと考えるべきだし、音楽ごとに、メンタルだけでなくフィジカルな部分でも別の人になれたら、色々な問題が一気に解消する。もちろんこれまでだって、指先の動きや弓の使い方などのフィジカルな要素は直接出音に影響するからフィジカルが0%だったわけではない。だけれど、わたしの場合は、耳を経由してから、あるいは楽器の振動を経由してからのフィジカルだったので、そうじゃなくて身体の型からはじまっていく部分にも目を向けられたら、きっと何かが変わる気がするな、というのが3日前の発見でした。
一つの物体を使って色々な表現をする人で、もしかしたら同じような悩みを抱えている人がいるんじゃないかと思って(例えば、この種目のためにはこの部位には筋肉がついちゃいけないのに、こっちでは必要!とか)わたしの場合の今思っている最善策を書いてみたのですが、今気づいたのは、事例がマニアック過ぎて、ほとんどの人に理解できなかったかも・・ということです。
整理します。人は何かの動きをする時に、身体で考えたり、気持ちで考えたり、見ため、聴いた感じ、あるいは身体に伝わる何かの感じとか、自分の得意分野があるとそれ以外のものを使わなくなってしまうことが多くて、得意分野がある人ほど何かを見失いがちだし、そういう見失っているものに気づきさえすれば、もしかしたらぐぐんと成長できるんじゃないかな、と思った、というところでしょうか・・・(このnoteの最初のほうに書いていた、「大発見を公開します!!!」のときのテンションはどこへ・・。きょう、テンションによる文体の変化がいつも以上に半端ないです。)
感受する部分、自分でこうしようと思う動かし方、癖になるぐらい身についているもの、この3つをうまく使い分けて育てていきたいな〜と思い、新しい試行錯誤の日々の幕開けです。