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ノルウェー民俗音楽入門① 〜ダンス音楽を知ろう〜

今日は、ノルウェーのダンス音楽(器楽曲)をご紹介します。

※ 前回の note で書いたように「 ICF でノルウェー音楽クラスの受講を希望してくれていた方に届くといいな」という気持ちで書いているので、アイリッシュ音楽を演奏する方向けの説明を一部用います。アイリッシュ音楽を知らない方でもまったく問題ありません◯

ノルウェー民俗音楽の中でのダンス音楽の位置づけ

アイルランドにジグやリール、ポルカ、ホーンパイプなどがあるように、ノルウェーにもダンス音楽があります。アイルランドのエアーに相当するような音楽もありますが、器楽曲の多くはダンス音楽です。
※もちろん歌もありますが、わたしハーディングフェーレ&フェーレ奏者なので、器楽曲のみ説明します。


Slåtter と gammeldans

ダンス音楽には大きく分けて、Slåtterとgammeldansの2種類あります。

● ガンメルダンス gammeldans

後者のgammeldans (意味は古いダンス) あるいは runddans (ラウンドダンス)と呼ばれているヨーロッパから輸入された比較的新しいダンスもあります。新しいのに「古いダンス」!

例えば、reinlender, Vals, polka, masurkaなど。Vals はワルツ、masurka はマズルカのことです。reinlender(どうカタカナにしていいかわからない・・)はスウェーデンでいう Schottis(ショッティス) のようなもの。polkaはご存知のポルカです。これらは難易度も低いので、子供向けのワークショップなどでも多く取り上げられます。


● スロッテル slåtter

ヨーロッパから輸入されたものではない、ノルウェーの伝統だと多くの人が思っているダンス音楽が、前者のSlåtterです。ここからは動画で観ていきましょう。

Springar (springleik)

特徴
・男女がカップルで踊ることが多い(注1)
・グループで踊る場合もあれば、一組だけで踊る場合もある
・「走る」という意味の踊り
・3拍子系に聴こえる(注2)
・地域によって「スプリンガル」と呼ばれたり「スプリングライク」と呼ばれたりする(注3)

Slåtterすべてに共通することですが、使用楽器は、ハーディングフェーレ hardingfele 、フラットフェーレ flatfele(フィドルのこと)、セリエフルート seljefløyte、山笛 fjellfløyte、口琴 munnharpe、ランゲレイク langeleik、アコーディオン trekkspill、歌、口笛、クラリネット、ドラミングなどなど、基本的になんでもOKです。お手持ちの楽器で挑戦していただければ!

Gangar (Rudl)

特徴
・男女がカップルで踊ることが多い(注1)
・グループで踊る場合もあれば、一組だけで踊る場合もある
・「歩く」という意味の踊り
・2拍子系に聴こえる(4分の4拍子的に聴こえる曲も8分の6拍子的に聴こえる曲もある)(注2)
・地域によって「ガンガル」と呼ばれたり「ルッル」と呼ばれたりする(注3)

「歩く」というダンス、いや、本当に歩いています。最初観た時は、どこからが踊りなのかわからなかったし、ノルウェー人からは「退屈しない?」と気遣われました。

Halling

特徴
・男性が一人で踊ることが多い(注4)
・踊りの難易度、高い!アクロバティック!
・帽子を蹴る!
・曲を覚える難易度は低い(と多くの奏者がいうし、わたしもそう思う)
・2拍子系に聴こえる(2分の2拍子的に聴こえる曲も8分の6拍子的に聴こえる曲もある)(注2)
・同じ曲でも、ゆっくり弾くとGangar、速く弾くとHallingになる場合がある

地域差があって、私が定期的に尋ねているハルダンゲル地方(ハダンゲル地方)にはハリングはありません。
逆に、わたしが所属しているデュオ ノルカルTOKYO と何度も共演してくれているUlf-Arne Johannessenの出身地であるÅlでは、ハリングがとても盛んです。

ノルカルTOKYOとUlf-Arne Johannessenの共演動画はこちら


ノルウェーの民俗音楽(舞踊)を効率よくYoutubeで検索する方法

今回貼り付けたYoutubeはすべてランズカップライケン Landskappleikenというノルウェーの民俗音楽と舞踊の祭典の中で開かれるコンペティションの動画です(注5)
ノルウェーの民俗音楽について検索しようとおもって「ハーディングフェーレ」や「Norway folk dance」と検索すると微妙な演奏がたくさん挙がってしまうので、簡単にレベルの高い演奏を検索できる方法をお教えします。

方法①
"landskappleiken" + "観たいジャンル名(例:springar)" で検索
方法②
"landskappleiken" + "楽器名(hardingfele)" で検索
方法③
"landskappleiken" + "観たい地域名(例:Telemark)" で検索
※landskappleikenの開催地がヒットしてしまう場合もあるので注意

コンペティションは、一番レベルの高いKlasse A、大人一般部門のKlasse B(プロの演奏者もいます!)、Klasse C(若年部門、かわいい!)、Klasse D(お年寄り部門、溢れる個性!)で構成されています。いいパフォーマンスをみるためには"A"と書いてあるものを拾うと手っ取り早いでしょう。

曲名で《ジャンル名 etter 人名》というのが多いですが、etterは英語でいうところの after、スウェーデン語でいうところの efter なので、《誰々さんが演奏していたこのジャンル》という感じになります。クラシック音楽とは違って楽譜で書き残された音楽ではないので基本的には著作権は存在せず、誰が作ったかではなく誰が演奏したのかがタイトルになります。音楽が伝承されていくうちに形を変えていくのも、民俗音楽の魅力のひとつです。

地域によって同じジャンルでも全然ビート感が違うという話は、また次回


まとめ

きょうはここまでです。

ノルウェーの民族舞踊のうち、まず抑えておきたいのは springar, gangar, hallingです。ご興味を持ったら、ぜひおすすめの方法でYoutube検索してみてください。民族衣装に少しずつ違いがあったり、踊りのスタイルが少しずつ違ったり、こんな楽器で伴奏するんだ!という発見があったり、少し地味だけれど奥深い世界が広がっています。

入門編ということで説明をかなり簡略化していますが、もしこのnoteの内容の間違えに気づいた方がいたら、ご指摘ください。私も日々勉強中です。

注釈

(注1)女性同士で踊ることもある。男性同士は今のところギャグ的にしか踊らない。LGTBに理解のある国なので、いずれ男性同士でも普通に踊るような時代が来るかも、とわたしは思っている。

(注2)何拍子という概念は西洋クラシック音楽の概念なので、民俗音楽の説明に用いるのは本当は適切でない。

(注3)ノルウェーには公用語がブークモール、ニーノシュク、サーミ語の3つあり、方言もとても多い。

(注4)2019年のLandskappleikenのDans klasse Cでは、女の子が初優勝しました!歴史的な瞬間で、みんなが泣いた!

(注5)Landskappleikenについては私が2018年11月 第69回東洋音楽学会大会にて発表した「ノルウェーにおける伝統音楽の継承ー民俗音楽舞踊コンペティション「ランズカップライケン」への参与観察を通してー」の要旨に比較的わかりやすくまとまっています。

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