歪みのはじまり2〜ななみちゃん〜
前回までのあらすじ
なるみちゃん。
毎日デコ出しの髪型で、元気で明るい女の子。
彼女は誰に対しても友好的で、明るい人格の持ち主だった。
しかし彼女は、教室の椅子を上履きのまま踏みつけてしまう癖があった。
行儀良く育った僕は、彼女の行いが許せなかった。
勇気を出して彼女に注意するも、
「…だって出しっぱなしの椅子、邪魔だもん」
と言い包められてしまい、その後も彼女は椅子を踏み続けた。
僕と同じく違和感を覚え始めたクラスメイトもいたが、事態は悪化。
新たに椅子を踏み始める女子が現れてしまうのだった…
大人びた少女・ななみちゃん
ななみちゃんは小学生の割に、可愛いというより別嬪さんだった。
僕は今、そんな彼女が男子の椅子に上履きのまま踏みつけている姿を目にしていた。
彼女はなるみちゃんのように、道を通るために椅子を踏むのではなく、意図的に椅子を踏みつけているのが見てとれた。
その証拠に、椅子の上で数回足踏みをしていたからだ。
彼女が通り過ぎた後の椅子は、真っ白な靴跡で汚れていた。
…それに気づかずに、その席の男の子が戻ってきた。
男の子は靴跡に気づくこともなく、椅子に座った。
僕は心の中で、その子のズボンがきっと白く汚れたことを想像した。
ななみちゃんは何の罪に問われることもなく、意図的に椅子を踏んだ。
そしてその席の男子は、理不尽にズボンを汚されてしまった。
僕はますます、なるみちゃんやななみちゃんがどうしてこんなに酷いことをするのかが理解できなかった。
理不尽な世界を知った日
とある日の放課後、僕は忘れものを取りに教室へ向かった。
時間は18時頃だったので、ほとんど学校には生徒がいないはずだった。
教室の扉を開けると、そこには衝撃の光景が僕を襲ったー
「あ…」
僕に気がつき、焦った表情をしたななみちゃん。
そしてもう一人、さくらちゃんがいた。
二人は手を繋いで机の上に立っていた。
クラスメイトの机はみんな白い靴跡で汚れていて、たくさん踏まれていたことを示唆していた。
「き、君のはあんまり踏んでないから…!」
そう言った矢先、ななみちゃんは僕の机の白い靴跡を手で払った。
机に立ったままのさくらちゃんに目を移すと、うんざりした顔をされた。
それはまるで『邪魔しやがって』と言わんばかりの表情だった。
僕はさくらちゃんの事が好きだったこともあり『何か悪いことをしてしまったのかな』と思ってしまった。
悪いことをしているのは完全に向こう側なのに…
僕は忘れ物を手にして教室を立ち去った。
心臓の鼓動が激しく、早くその場から逃げたかった。
芽生える復讐心
僕があの時教室に向かわなければ、影で机を汚されていたことを認知できなかった。
誰にも知られず、彼女たちは何の罪に問われることもなかっただろう。
しかし『バレなければ何をしてもいい』ということが許せなかった僕は、彼女たちに『人の気持ちを分からせてあげる必要がある』と思った。
僕は教室で、なるみちゃん、ななみちゃん、さくらちゃんの誰かの椅子が出しっぱなしの時を伺っていた。
その時が一番早く訪れたのは、なるみちゃんだった。
僕は少し足を震わせながら、出しっぱなしの彼女の椅子を踏みつけた。
バンッ!
(椅子を踏む音)
自分がつけた白い靴跡は薄かったが、それでも優越感と罪悪感で何とも言えない気持ちになった。
気持ちを落ち着かせようと自分の席に戻ろうとした時、僕は自分の失態を思い出すー
(自分の椅子が出しっぱなしだ…!)
誰かの椅子を踏むことに必死で、自分の椅子をしまう事を忘れていたのである。
僕は急いで自分の席へ向かった。
しかし目の前でー
バンッ!!
(椅子が踏まれる音)
僕の椅子が、ななみちゃんに踏まれてしまった。
「なるみの椅子、踏んだらダメだよ」
彼女は椅子の上から、僕を見下しながら言った。
(彼女は踏んでよくて、僕はダメなのか…?)
(それにななみちゃんは裏で、こんなことよりもっと酷いことをしているのに…)
「昨日のこと、先生に黙っててくれたんだ。
ありがとね。」
彼女は言いたいことだけ言って、ピョンと椅子から降りて立ち去った。
この教室では常識が通用しない…
僕は虚しく、彼女がつけた白い靴跡を手で払った。
細かい砂のような手の感触が、僕をさらに屈辱的な気持ちにさせたー
(歪みのはじまり3に続く)
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