歪みのはじまり3〜さくらちゃん〜
前回までのあらすじ
なるみちゃんだけでなく、ななみちゃんまで椅子を踏み始めてしまい、僕は彼女たちの常識外れな行動に苦しんでいた。
更にとある日の放課後、僕はななみちゃんとさくらちゃんが教室の机を踏み歩いて遊んでいるところを目撃してしまう。
彼女たちに『汚される側の気持ちを分からせる必要がある』と思った僕は、なるみちゃんの椅子を踏みつけることに成功した。
しかし誰かの椅子を踏むことに必死だった僕は、その間にななみちゃんに自分の椅子を踏まれてしまう。
「なるみの椅子、踏んだらダメだよ」
裏でもっと酷いことをしていた彼女に、理不尽な注意を受けた僕。
彼女が汚した椅子を手で払い、砂のような感触と共に屈辱を味わうのだった…
100点のテスト
僕はさくらちゃんの事が好きだった。
背が一番低くて、少し暗い雰囲気の女の子だったが、たまに笑う笑顔がとても可愛かった。
そんな彼女が、放課後に机を踏んで遊ぶ人だなんて考えたくなかった。
彼女は隣の席だったが、恥ずかしくてほとんど話をした事がなかった。
とある日、授業でテストの返却があった。
久々に100点のテストを取る事ができた僕は、嬉しい気持ちもあり浮かれていた。
机に物を散らかし、友達とお喋りをし、周りが見えていなかった。
そのせいで、机の上に置いていたテストが無くなっていることに気づいたのも、かなり遅かった。
探しても見つからないテストは、さくらちゃんの足元に落ちていた。
しゃがんで手に取ったテストはくしゃくしゃに踏みつけられていて、靴跡で真っ黒になっていた。
彼女を問い詰めたかったが、テストを落とした自分が悪いのかとも考えた。
それでも彼女の方に視線をおくって訴えたが、彼女は完全に僕を無視し続けた。
そしてついにー
「何?」
彼女がゴミを見るような目で僕を見た。
それはまさに『見すぎて気持ち悪いんだけど』と言っているような表情だった。
「ご、ごめん何でもない…」
テストを汚された僕が、なぜか謝った。
手で払っても取れないテストの靴跡を、僕は眺めることしかできなかった…
空虚な謝罪
僕が『椅子を踏まれることを嫌がっている』ことは、だんだんと彼女たちに伝わっているようだった。
なんせさくらちゃんは、隣の席だから僕の椅子を踏むはずがないと勝手に思っていた。
とある日、提出物の返却を先生から渡された。
順番は不規則なものだったが、さくらちゃんの後に僕が呼ばれた。
提出物を受け取り、席に戻ろうとする僕。
一足先に席に向かって歩いているさくらちゃん。
しかし僕が椅子をしまうのを忘れていたせいで、彼女の道を妨げてしまっていた。
(まさか…すぐ後ろに僕がいる中で、椅子を踏むはずがないよな…?)
僕はそう願いつつ、間に合うはずのない距離を早歩きした。
バンッ!!
(椅子を踏む音)
目の前で僕の椅子が、さくらちゃんに踏まれてしまった。
「あっ、ごめーん…」
振り向いた彼女がボソッと、僕にそう言った。
『一応言っておくか』というような声のトーンだった。
彼女は何事もなかったかのように席に座ったが、僕の椅子には白い靴跡がくっきりと付いていた。
そのまま座るわけにもいかず、僕は彼女の真隣で椅子の砂を払った。
その時僕は、好きな子に抗えない何かを感じたー
間違っているのは向こうなのに…
これまで彼女たちを許せなかった僕は、何とかして『椅子を汚される側の気持ち』を分からせてやりたかった。
しかしまともに意思を示せたのは『なるみちゃんの椅子を踏んだ』一回きりで、それも本人は気づいていない様子だった。
そればかりかななみちゃんには椅子を踏まれ、仕舞いには好きだったさくらちゃんにも椅子を踏まれてしまった。
間違っているのは向こうのはずなのに、毎回酷い思いをするのは僕だった…
6年生の秋が来た。
僕は卒業するまでに、彼女たちに『勝ちたい』と思っていた。
それは『行儀良く育った僕の感性は間違っていない』ということを証明することでもあった。
しかし現実は残酷で、その戦意は『運動会』で完全に失われることになる。
そしてこのトラウマは、生涯引きずる体験になった…
『歪みのはじまり4〜人間ピラミッド前編〜』に続く
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