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食べるは自由でいい
むかし弟に言われた。
「英夢ちゃんは生きるために食べるんじゃなくて、食べるために生きてるよね」
どうしようもなく食べることが好きで、
どうせ食べるなら美味しく食べたいと思う。
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こだわりの食材や調味料、製法を施して
とかじゃない。
納豆なら100回混ぜて、
ウィンナーには切れ目を入れて焼き目をしっかりつけたい。
カレーはルーをブレンドして、
ショートケーキのいちごは最後に食べたいところ。
お風呂に浸かりながら冷蔵庫の中身を思い出す。
よく遊ぶ街にはお気に入りの喫茶店があって、そこのアプリコットチーズケーキを頬張る休日。
まだ外は明るくて、さてこれからどこに出掛けよう。
そうやって、
美味しく食べる側にそれ以外の生活がある。
幼い頃からカレーが大好きで、初めてのパン屋ではカレーパン。学食を食べるなら450円のカツカレーがお決まりだった。
500円玉をトレイに置いてカツカレーと交換する。財布の中に増えた50円玉は4回目のカツカレーに消えていった。
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久しぶりの学食。
500円になったカツカレー。
揚げ物はあまり口にしなくなった。
3年の月日。
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変わらない味。
懐かしくても戻れない。
でも口の中だけ3年前。
目を瞑ればもっと3年前。
どこかにいるんじゃないか。
共に過ごした場所だからきっと。
一緒に学食をしたことはないけれど、窓の向こうには歩く君が見える気がした。
過去には戻れないし生きていると会いたくても会えない人が増えていく。
その人の声やにおい、歩き方の癖はもう思い出せない。
でもひとくち食べれば
その人との、その場所の、
味はいつまでも思い出せる。
だからってわけじゃないんだけど、
どうせ食べるなら美味しく食べたいと思う。
むかし弟に言われた。
「英夢ちゃんは生きるために食べるんじゃなくて、食べるために生きてるよね」
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食べるは自由でいい。
食べることが大好きな私が残す
大好きな人たちが食べる時間。
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