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あらためて考えると光合成すごくない?「怖くて眠れなくなる植物学」【読書感想】


「怖くて眠れなくなる植物学」著者/稲垣栄洋


植物が怖いという意外な視点に、惹かれて読み始めた。元々は「面白くて眠れなくなる植物学」の続編だということも知らなかったが、本書もとても面白かったのでこちらも機会があればぜひ読みたい。

不思議で謎に満ちた"植物"

花壇に植えた覚えのないヤマゴボウがにょきにょき生えてきた。去年、取り去ったはずのアサガオが芽を出している。育てているわけでもないのに植物は繁殖する。こちらが望んだようにはトマトの実をつけてくれないし、ニンジンはひょろひょろだ。人間の手が大いに必要なこともあることを思えば、植物は不思議だ。今まで気にもしていなかったけど、旺盛に蔓延る雑草さえ奇妙に感じる。不思議で不気味な存在だ。

人間との関わりから垣間見える不気味

農業や園芸、森林浴や散歩、植物に関わる文化や伝承、人間の暮らしと脈々と関わり続ける植物の魅力を本書は伝えてくれる

人間とは異なる生態系

縄文時代後期に中国大陸からもたらされたヒガンバナは種子を持たない。球根が分かれて増えていく。植物の世界ではクローンは珍しくないが、アイルランドのジャガイモ飢饉を例に出し同じ弱点を持ち続けるというリスクがある。有性生殖は他の個体と遺伝子を交換することで新たな性質を持つことができる。受粉しないリスクもあるが、環境が変化しても生き残る可能性があるのだ。

マメ科植物がやせた土地でも育つことは知っていたが、その理由が根粒菌と呼ばれるバクテリアから空気中の窒素を取り込んでもらって成長していたことは知らなかった。森は微生物が死滅する「フィトンチッド」と呼ばれる様々な毒性の物質を放出しているなど、面白い話がたくさん出てくる。植物は生き残る術を多用に持つ存在なのだ。

「死」すら進化の過程にすぎない


特に印象深かった箇所は以下の引用だ。

そもそも「死ぬ」ということそのものが、生物が進化の過程で自ら作り出したものです。生命は永遠であり続けるために、自らを壊し、新しく作り直す方法を身につけました。そして、一つの生命は一定期間で死に、その代わりに新しい生命を宿すようになったのです。こうして世代を超えて命のリレーがつながっていきます。

「怖くて眠れなくなる植物学」稲垣栄洋p30

縄文杉のように数千年という寿命を持つ植物もあるなかで、気候変動などの変化に対応するために寿命を短くして世代交代をする方法を選んだ。「死ぬ」ことが生物の進化の過程で自ら作り出した、という考えが新鮮だった。だからといって死への恐怖が薄れるわけではないけれど、自分の中で新たな視点が生まれたように感じて刺激的な体験をした。

「死」によって生命は永遠になったのです。

同上

植物怖い。

不気味で怖い、しかし……

気にも留めていなかったけれど、あらためて知ってみると、面白くて怖い「植物」 虫を捕食するとかなんかもう何故なんだ。考えれば考えるほど、わからない。わからないから面白い、を実感できる本でした。

おまけ

本書とは全く関係ないのだけれど「魔女の檻」ジェローム・ルブリの中に、森に生えるきのこの胞子が霧に混じり、村人が大量死するという箇所があり、フィトンチッドでは???と思ったけど、この小説の構造手が込んでいて、フィトンチッドどころではなかった。というかフィトンチッド関係ない。民間でややこしい実験をしないでほしい。自治体に許可取ってほしいが取れないよな~これ。


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