エンプティチェア#1 出会い
★人物
・椅子A:クライエント(Cl) 30代女性。かつてシンガーソングライターとして活動していたが、2年前に無期限活動休止。自身の生き方や在り方、新しい表現などについて思案し模索を続けている。
・椅子B:カウンセラー(Th)
(2019年某日)
Cl: お願いします。
Th: はい。(経緯を記入した書類を)拝見しますね。
……なるほど。会社を退職されてからは、すべてにおいて迷いながら進んでいたんですね。島に行かれたのは、”呼ばれて”ってかんじがしたということで。その、迷いながら生きている中で、島で暮らすことによって、あなたは何が変わったと思いますか?
Cl: そうですね。ほんとにそれまでは仕事もそうだし、音楽のほうについてもずっと悩んでいて。そういう状態で島に呼ばれていって、何が変わったか。
うーんそうですね、色々余分なものがそぎ落とされたっていうのが一番あるかなと思います。それまでは色々抱え込んで、ああでもないこうでもないと悩んでいたのが、今ゼロになった感覚なんですね。実際ゼロかどうかはわからないけど、感覚として。改めて今から大学のときに地元から上京したみたいなかんじで、ほんとにここからゼロから作り上げていくってかんじがするんですね。そのゼロになったかんじ、うーんなんか不思議なんですけど。完全にゼロじゃないし、今からやることもある程度決まっているし。またその道が「これでいいのか」って悩むのかなって気はするんですけど。またゼロからこうして作っていく。
改めて自立について思うところもあったので、名実ともに18歳からやり直すぐらいの気分でいるんですけど、そういう感覚になれたのは間違いなく島に行ったからだと思います。それこそが私に必要だったものかなと思うので。要するに、ここから本当に自立して自分の人生をもう一回作っていくってことだと思いますね。
Th: ゼロになるっていうのは、そういう感覚なんですね。…(難しい顔をして考える)今どんな気分ですか?東京に帰ってきて。
Cl: うーん、なんか、まだ不安定は不安定。いやそうでもないかな?!うーーーん…
思ったよりこう、しんどくないなっていうのはありますね、寒さとかに関しても。ちょっと時々、帰ってきて数日後にさみしくなってボロボロ泣いたり、これからも定期的にそういうことはあると思うんですけど、思ったより違和感なくこっちの生活を過ごせている気はします。ただ昨日、外を出歩いて本屋とか行って色々考えて、仕事の話して。今日、朝あほみたいに眠って目が覚めなくて。疲れたんだと思います。
どんな気持ちか…不安もありますしドキドキしてますけど、なんか静かな心持ちでもあって。島で最後に愛を注入されて帰ってきている感もあるので、体や心に火が灯った感があって。ほんとに今それに助けられていて、生きてる心地がするようになったなあと。前みたいに、体も心も芯から冷えるってことは多分もうないなって、火を灯してもらったなっていうふうに思うので。それがあればこう、どんなときも心静かに、なんとかやっていけるのかなっていうふうに今は、感じてますね。
Th: そう、ですか。そっかー、それはなんか、その、素敵ですね。
今日はね、初めてこうやってお話ししてますけど、今後、こうやって定期的にお話しできたらいいなって思ってるんですけど。一緒にこうやって対話していく中で、どんなことが見えてきたらいいなとか、どんなふうになったらいいなとか、そういう希望とか道筋みたいなのがあったらお聞きしたいんですけど、いいですか?
Cl: そうですね。まずとにかく、自分のことを自分で発信するのが苦手だっていう意識があって。何も言えないわけじゃないし、ひねりだしたら色々ボボボボ出てはくるんですけど、それが適切な気がしないというか。自分で言ってはいるけどなんか的を得てないかんじとか、言えば言うほどずれていく感じとかがあって。
なんかこう…自己表現、なにがほんとの自分で。本当の自分ってのも違うかな。なんかこう、私はどういう存在としてどう世の中に発信したらいいのかっていうのが確信が持てなくて、やればやるほど違う気がしてきて。やっぱりそういう本質的な自分にたどり着くお手伝いをしていただきたいっていうのと…そうですね、こういう話をする中できっと色々発見があると思うんですよ。自分で語るんじゃなくて、聞かれたことに答えていく中で見えてくることがあると思うので、そこで気づきを得たいっていうのが一番ですね。そうしていく中でおのずと、自分が何をするべきかとか、どういうことを語っていくべきかとか、きっと見えてくると思うので。もうとにかくまずはこうやってお話ししていきながら、客観的な言葉として自分の語りを見た時に気づきがあるかなっていうのを、楽しみに、して、います。
Th: なるほど。わかりました。
……(沈黙)……(笑)何を聞いていいのか、何から聞いていこうか。
今日はね、初めてということで、これからちょっとずついろんなお話を伺っていけたらなと思うんですけど。先日、お誕生日だったんですよね。今感じていることや、どんな歳にっていうことがあったら、ちょっと今日お聞きしたいなと思いました。
Cl: そうですね。なんかこう…一人の人間として自立したいと思って帰ってきた身としては。本当に今さらながらなんですけど、未熟すぎて恥ずかしい。そんな、そんな大人に全くなれていないので、恥ずかしいと思う気持ちでいっぱいです。10年以上遅れてると思うので。
それでも今まで、平気な顔して生きてきたのがほんと恥ずかしいなっていうふうに思うんですけど。けどそれは今さら言っても仕方がないので。うん。今の私として、現実を受けとめて、現実の未熟な自分を受け入れて、ここからどうしていくかだと思うので。ここからが本当のスタートですね。
Th: そう、なんですね。なるほど。
なんかこう、おそらく今までも一生懸命生きてこられたと思うんですよ。なので、今すごいこう、未熟で恥ずかしいって言葉をおっしゃってましたけど、ねえ。なんだかこう…今までほんとに一生懸命、悩んで考えてここまで来られてるんじゃないかと思うので。それは、Aさんの素敵なところなんじゃないかなと思いますし、それに共感してる人もきっといると思うんですね。だから、そういう、Aさんの魅力というか。それがほんとに世の中に、自分も心地いい形で、みなさんにも受け取ってもらえる形で伝わっていったらいいなと思いますし。社会の中でどんな居場所を作って、どんな役割を果たされるのか、これからどうなるのか私も楽しみだなっていうふうに思いますし、ね。そのお手伝いをこれからこうして一緒にやれたらいいなっていうふうに思います。
今日は初めてなので、お互いこう照れ臭いところとかね。不思議な気持ちですね、ほんとね。こんなもんなんでしょうね、人が出会うときっていうのは。今日は改めて気づくことも、これだけでもありますけど、お互いに。こうやってね、やっていけたらいいなって思います。これからよろしくお願いします。
Cl: そうですね、ちょっと今日はやっぱり新鮮でした。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。
「名前を捨てた表現者」と「拠り所のないカウンセラー」の心理面接セッション記録。および生きるうえで大切なことは何かを探求せずにいられない、暑苦しさ注意のつぶやき集。