『空気を読む脳』を読む~これからを生きるために
中野信子『空気を読む脳』を読んでいます。なぜわたしたちは「空気」を読むのか(→①はこちら)、「呪い」からの解放(→②はこちら)について脳科学的観点から作者はどういう仕組みでわたしたちは「そういう」行動を取ってしまうのか、ということを書いてきました。最終回の今回は作者のいう日本人の「これから」について書いていきます。
1.「ほめてはいけない」
ほめて育てる、というトレンドについて作者はこのように警鐘鳴らします。いくつかの実験により、「あたまがいいね」とほめることが、本人の心から「挑戦する気持ち」を失わせる、というのは今ではよく知られた話です。また、素晴らしいご褒美を用意してのテスト「100点取ったらこれ買ってあげる」がやる気と創造力を減退させる、と作者は述べていて、その理由を脳が「素晴らしい報酬がある仕事はすごく嫌なことをさせられるのに違いない」と認識すると考えるからだ、と言いました。「注射を我慢できたらおやつ買ってあげる」の心100まで、ということだそう。むしろ、わたしたちは他者から評価される(名誉や、称賛、有名になり、承認欲求が満たされる)ことこそを脳は喜ぶのです。
では、どうすればよいのでしょうか。
花まる学習会の高濱正伸さんは、「最後にかならず『よかったね』で話を締める」といいました。「友だちと喧嘩をしちゃった」「今回はけんかになっちゃったけど、こう言っちゃだめなんだ、ってことがわかって「よかったね」」「テストの点が最悪だった」「つまづいたところがわかったから、「よかったね」」。
一生懸命がんばって考えたことを評価できるか、ということが大事。努力と工夫を認める、ということが大切です。
2.日本人の脳~「幸福度の低さ」の理由
歴史学者の磯田道史さんによると、「日本人は常に「親分」を探し続けてきた」と言いました。江戸時代初期、「近世」を確立するにあたって、日本人の遺伝子は変革をせまられました。社会をまとめるために、当時の為政者は「逆らったものは処刑」を徹底したのです。江戸時代初期の70年くらい、毎年各都市で300人ほどが処刑され続けました。理由は「逆らった」から。中には歌舞伎を見に行った、や決まりを破った、というそう大した犯罪でもないようなことです。その結果、日本人は「決まりを守る」「上の立場の人間には従う」ことが遺伝子に刷り込まれたのだ、ということです。日本人はこういった経験により、悲観的になりやすく、真面目で慎重で粘り強い特性を持つようになりました。じじつ、犯罪心理学者のレインは、子どもの反社会的行動の40%は遺伝によって説明できると言いました。同じように「幸福度」の調査でも遺伝で40%は決まっている、ということが現在はわかっています。そもそも日本人には「セロトニン」の分泌が少ないので、幸福度を感じにくい遺伝子を持っているといえます。
合理性に欠けること、悲観的になること、ということは「弱点」と一見感じられますが、合理的判断に欠けることにより、人間は生まれた土地(ヒトの起源はアフリカです)から移動して新しい土地に移住して厳しい自然と戦って結果的には現在の繁栄につながっています。それを「新規探索性」といいます。こういった一見正しくなさそうなことが「強み」だったりするわけです。わたしたちは「不安」を感じやすく、「ストレス」を感じやすい脳を持ています。それは同時に「生き延びる工夫を生むツール」となりえます。「弱み」は「強さ」に変えることができるのです。