ヨーロッパ出張レポートシリーズ vol.1 〜小型EVのパイオニア MicrolinoとTazzariを訪問〜
こんにちは!株式会社eMoBi COOの後藤です。
ヨーロッパ出張レポートシリーズ vol.1 として、イタリアとスイスを拠点に注目を集める小型EVメーカー「Microlino(ミクロリーノ)」と「Tazzari(タッツァリ)」の訪問の様子をご紹介します。実際にこの2社を日本のモビリティスタートアップが訪問してnoteでレポートするのは史上初です。
小型EV先進国のヨーロッパで、現地のリアルな情報を収集&視察するために行った2024年夏 2週間のヨーロッパ出張から、様々なインサイトを得ることができました。
今回訪問した2社の先行プレイヤーから得た学びを記事にしました。
進化するヨーロッパ市場のリアルな現状と可能性を、ご覧ください。
出張の背景と目的
モビリティを軸に社会と都市の未来を根本から変革し、世界100都市で、移動・エネルギー・インフラを一体化した「人が人らしく、遊ぶように暮らせる街」を構築する。
電動トゥクトゥクのような小型EVがこのビジョン達成のキーであると心の底から信じています。だからこそ、小型EV先進国であるヨーロッパの現状を自分の目で見たいと感じていました。
今回の出張では、イタリアとスイスを中心に、注目を集める小型EVメーカー「Microlino(ミクロリーノ)」と「Tazzari(タッツァリ)」を訪問しました。
彼らがどのように地域ごとの特性に対応しながら事業を展開しているのか、現状を調査することが目的です。これにより、ヨーロッパ市場全体の動向を把握し、日本市場との比較や新たな事業のヒントを得ることを目指しました。
Microlino(ミクロリーノ)訪問
スイス発の小型EVメーカー「Microlino」は、クラシックなデザインとモダンな技術を融合した魅力的なモデルを展開しています。起業する時からベンチマークしていたので、創業者に会えて非常に感慨深かったです。
各ポイントで気になったことをヒアリングしてまとめました。
購入者層と用途
Microlinoの購入者は高所得者層が中心で、セカンドカーやサードカーとして利用されることが多い。特にL7(最高速度80km/h)のモデルは、45~50歳代のミドル層に人気。一方で、L6(最高速度45km/h)は免許区分が簡単なことから、若年層や免許返納後の高齢者にも使われている。たまに、親が子供の通学用に購入するケースもある。
市場動向と課題
チューリッヒでは、Microlinoが街中で見る小型EVの約50%を占めるほど普及している。ただし、南ヨーロッパではエアコン未搭載が理由で需要が伸び悩んでいるとのこと。エアコンを搭載するモデルの開発が進められている。
マーケティング
展示会やSNSを活用した露出戦略が成功のカギとなっている。特にTikTokでは1500万再生を記録するなど、SNSを中心にユーザーレポートを通じて効果的にブランド認知を拡大している。
製造・開発
最初のプロトタイプをイタリアのTazzariグループと共同開発したが、現在はトリノで年間4000台の生産を行っている。製造は拡張可能で、クラッシュテストも実施されているが、安全性と軽量化のバランスが課題。メンテナンスでは、ソフトウェア関連のエラーが中心で、2025年にはOTAアップデート対応車両を導入し、遠隔管理が可能なセントラルVCUを開発中とのこと。
VCU開発はコスト面の課題から外部と連携し、バイク大手メーカーの取引先がハードウェアを担当している。クラッシュテストやOTAアップデートの計画も進められており、安全性や技術面でも改良が図られている。
乗ってみた感想
小型EV特有のおもちゃのような感覚は全くなく、上質な乗り心地で加速も安定感がある。普通自動車に煽られるような感覚もなく、公道での走行に市民権を得ている印象だった。
Tazzari(タッツァリ)訪問
イタリアを拠点とするTazzariは、実用性と独自性を追求した製品で知られているとのことでした。自社工場による高品質な製造体制が特に印象的でした。
各ポイントで気になったことをヒアリングしてまとめました。
市場での位置付け
Tazzariの車両は主に都市部で利用されており、駐車スペースに困らないことや、維持費の低さが利用者に支持されている。特に30〜50代のミドル層が多く、買い物や通勤、送迎といった日常使いに重宝されている。また、完全電動でガソリン代が不要な点や、郊外から都市部への車両乗り入れ規制を回避できる点も評価されている。一方、地方部ではインフラが整っていないため、利用は限定的。
製造体制と品質管理
Tazzariはイモラの自社工場で、車両のインターフェースやバッテリーの組み立てまでを一貫生産している。この体制により、2009年販売モデルのパーツも製造可能で、長期的なメンテナンスがしやすい環境が整っている。このような徹底した品質管理が、ユーザーからの信頼につながっている。
車両の特徴と選ばれる理由
同社が展開するL6(最高速度45km/h)とL7(最高速度80km/h)の2モデルは、固定バッテリーを採用し、200kmの航続距離を実現するモデルもあるとのこと。特に加速性能や小回りの良さが利用者から評価されている。また、車両は自動車に近いスペックを持ちながら、駐車場所に制約がないため、都市部での利便性が高いとされている。一方で、地方では充電インフラが不十分で、普及が進みにくい課題あり。
乗ってみた感想
実際に乗ると、ハンドリングは軽快で小回りが利き、段差もほとんど感じない安定した走りが魅力。ただし、レスポンスはやや遅く感じる部分もあり。車幅の感覚には慣れが必要だが、加速性能の高さも特徴的。
訪問を通じて感じたこと(考察)
両社ともそれぞれの市場特性に応じた製品づくりと戦略を展開している印象でした。
車両開発については両社共に中国系メーカーとは違い、クオリティコントロールに重きを置いていました。現状のユーザー層が比較的高所得であることやグローバルに展開する前に先にトラブルの芽を摘んでいる印象です。
Microlinoは、電動キックボードのような子供向けおもちゃの販売からスタートしています。そしてTazzariも、大手自動車メーカーにパーツ供給を行う企業のスピンオフ事業として始まっています。ハードウェアにおける品質管理がいかに事業課題になるかを認識しているからこそのアプローチだと想像しています。
しかし、クオリティ担保が競合企業との差別化になるわけではなく、グローバルでは大前提になります。土俵に立つみたいなイメージです。そうなると、ベンチャーやスタートアップが設備や生産体制への投資にどこまでこだわりきれるか考えさせられます。
2社とも自社製品のHW的側面に対してこだわりが非常に強い一方で、
デザインや機能、ブランディングといった部分のみでの差別化は非常に厳しい戦いになると想定されます。
小型EVが富裕層のおもちゃではなく、市民権をさらに得て普及していくには、ビジネスモデル側での発明が絶対に必要だと再確認する訪問でした。
それは単にサブスクで提供すると言うことではなく、エネルギーインフラも想定した事業設計やBYDやテスラのようなもっと上流レイヤーでの垂直統合戦略が、優位性を築くと言うことだと考えられます。
この訪問が、再度事業戦略を練り直すきっかけになりました。
おしゃれでかっこいいだけの小型EVを創らないために。
おわりに
今回のレポートでは、イタリアとスイスを訪問し、MicrolinoとTazzariという2つの小型EVメーカーの取り組みをお届けしました。
ヨーロッパ出張レポートシリーズでは、企業訪問の様子だけでなく、現地雑誌記者への取材や街の様子などありとあらゆる角度で小型EV先進国ヨーロッパのリアルを記述していきます。
ぜひ、第二弾以降もご覧ください。