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年末年始企画:旧ブログから(9/9)

「ロック研究」とは? 9:在野の研究の実例

2013年11月8日 09:41:09

 この連載も9回目になったので、ロック研究がどのようなものか大体はお伝えできたかと思います。

 それでもなお机上の空論と思われているのか、ロック研究についてどなたからの問い合わせもない状況です。

 しかしこうした素人参加型の研究分野は、歴史研究の分野ですでに成功している前例があります。歴史研究会の出版部門である「歴研」という出版社から出ている月刊誌『歴史研究』がそれです(※2025年現在は戎光祥出版から発売)。


月刊誌『歴史研究』2013年新年号


 本来であれば歴史の研究は学術の分野です。たとえば大学の研究室で調査や研究が行われ学術論文にまとめられ、紀要や学会で発表されるイメージです。

 しかし『歴史研究』という月刊誌では私同様の在野の研究者が中心になっており、そこにはおよそ素人とは思えない詳細な記事が掲載されています。また従来の俗説・通説に反しながらも明快な論理や数々の資料に基づく記事もあり非常に興味深い内容が多いです。テレビでもおなじみの歴史家・作家である加来耕三氏の連載もあって、単なる素人による同人誌のレベルではなく確固たる在野の歴史研究の分野が実際に存在することを示しています。

 最近おもしろかった記事は、邪馬台国の場所特定を明快に示した記事や、初期の日本の天皇の在任期間を統計的・数学的な手法で割り出して具体的な年代を特定する記事で、それぞれほぼ毎号で論争が繰り広げられています。

 この雑誌を主宰する歴史研究会は1958年創立、雑誌『歴史研究』は通巻600号を越え15000人の会員がいるそうで、全国各地に支部が置かれ懇親会や発表会等が盛んに行われているようです(※あくまで2013年当時)。こうした環境がロックの分野でも実現できれば、本を出すほどのページ数がない記事であっても世に送り出すことができますし、通説に反しながらも資料に基づいた研究も日の目を見ることができるでしょう。またアーティストが新アルバムをリリースするとか来日するとかといったタイムリーなイベントがなくとも記事が発表できます。

 70年代のロック世代も今では還暦に近づき、ベビーブーム時代の彼らだけでも厚い層をなしています。また彼らの子供の世代も親の影響からロックへの興味を受け継ぐ例もありさらに層を厚くしています。70年代当時リアルタイムにロックに触れて熱狂した時代から数十年を経た今、今度はあの熱狂を冷静な目で振り返り再検証する時代なのだと思います。

 熱狂により情熱や感情によって熱く語られた70年代当時の記事には、当時の若者の興奮とそれを当て込んだビジネス側の煽動が渾然一体となり、それはそれで素晴らしくも盛大なイベントとして今なお輝やいていて、その時代から遅れて生まれ育った私たちには羨望の思いがあります。羨望というよりむしろその時代に体験できなかった悔しさともいうべきでしょうか。

 そんな私の世代にとって70年代ロックを語ることとは、どうがんばっても神話の体験にはなり得ないものであり、研究でしか達成できないものだと思っています。しかし現在まで続く旧来のロック評論の世界では、担い手の世代交代を重ねながらもいまだにリアルタイム世代が書いたものを受け継ぎ、それを繰り返しているに等しい状況です。

 それは私たちの世代があえてすべきことなのでしょうか。今すべきことなのでしょうか。当時を体験していない私たちが体験者の言葉をそのまま受け継ぐことは、実感を伴わない分だけ空虚なものとなり、コピーを重ねた伝言ゲームになってしまうのではないでしょうか。

 「そんなこと言ったって、それしかできないだろ?」

 そんな声が聞こえてきそうです。確かに状況としてはそのとおりです。時間を巻き戻せない以上、私たちが当時を体験できないことは事実です。しかし私はこれまでの活動を通じて、私たちができる他の形があって、かつリアルタイムな世代と肩を並べられるような手法を実践し提示できた思っています。

 私たちの世代でしかできず、これまで誰も行わなかったことこそ、リアルタイムで触れられなかった私たちの行うべきことではないでしょうか。そして今、当時のロックの担い手が次々に引退し、また次々に亡くなっている状況は、ロックの再検証が予断を許さない時期を迎えているということなのではないでしょうか。

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