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年末年始企画:旧ブログから(4/9)

「ロック研究」とは? 4:既存のロック研究 2

2013年7月10日 12:20:22

 今回紹介するのは
『私の愛聴盤』(マーキー 刊)、1988年
収録の「特別寄稿 メロトロンとプログレッシヴ・ロック」(田辺弘幸 著)
 です。

『私の愛聴盤』(マーキー 刊)1988年

 この記事はメロトロンとプログレとの関係を数々の資料から解説する非常に興味深いものです。

 この本が出版されたのは1988年で、おそらくそれ以前にも日本でメロトロンとプログレの関係を語った記事はあったと思います。しかしそれらはごく短いものか、ロック評論の観点から書かれ主観的な内容を多く含むものだったのではないでしょうか。

 しかしこの記事の内容は数々の資料に基づいており、またそれらの出典も明確で数多くの注釈も入っているなど、かなり『子羊解体新書 前編』に近い形です。またここにはジェネシスに言及する箇所も数カ所あります。

 通常こうした記事はメロトロン史や機能の解説にとどまりますが、ここには日本におけるメロトロン事情についても触れているのが特徴です。通常洋楽の話題を日本で扱う場合、現地から遠く離れていることからくる情報や資料の不足により、どうしても欧米のものを水で薄めた内容になりがちですが、本記事はそこに日本という観点を加えたことで独自性と意義ある内容になっています。

 そもそもこの作品が内容深くなったのは、著者の田辺氏がプロのミュージシャンで演奏面にも機材面にも精通していることからきているようです。申し訳ないことに私は氏が所属していたというシェヘラザードというバンドを知らないのですが、氏はそのバンドでバイオリンとキーボードを担当していたそうですから、ご存知の人も多いかと思います。

 現在ではジャンルを問わずメロトロンが数多く詳細に語られるようになり、近年ではドキュメンタリー映画も制作されています。そうした意味ではこの記事はもはや過去のものとなった感はありますが、1988年にこうした研究を行い記事として発表したことはもっと積極的に評価されていいと思います。また現在こうしたスタイルで研究を行い、さらに前進した内容を加えたものは、少なくとも日本ではまだないのではないでしょうか(※あくまで2013年当時)。メロトロンについて語る人は一度は読んでおくべき記事だと思います。

 今回この記事を取り上げた理由はもうひとつ別にあります。それはこうしたロック研究記事の発表の場がどこにもないという現実を知ってほしいためです。

 この記事は濃密な内容ながら全15ページしかなく1冊の本にするには短かすぎます。そのために『私の愛聴盤』に挿入されたのだと思いますが、この本の主な内容は、複数の著者が自身の愛聴盤について語るという、いわゆるロック評論の形式であり、田辺氏の記事スタイルや内容と著しく異なっていて、半ば埋もれる形になっています。

 これほどの優れた作品がこのように扱われるしかない状況にはとても残念な思いです。現在もなお本の検索はタイトルや著者名や出版社名で行われているため、このままではこうした優れた研究がどんどん埋もれていくことでしょう。それでもこの記事は発表の場が与えられた分だけ幸運といえるのかもしれません。

 もしこうした記事を専門に発表する場があれば、たとえ15ページという短いものであっても、別の研究者の同じスタイルの記事と併せて掲載することで1冊としてすぐにでも発表でき、そうした記事を求める読者にダイレクトに届き正当な評価が受けられるでしょう。『子羊解体新書 前編』でも記事の数が1冊の本としてまとまるまでに、すでに出来上がっていた記事を長い間寝かせることになりました。

 こうした不便をなくすためには、何よりまずロック研究に多くの参加者が必要です。参加者が集まれば個々の記事のページ数が少なくても速やかな公開ができます。

 優れた研究を行いながらも発表の場がない方は以下のアドレスまでご連絡ください(※2025年現在はコメント欄にお願いします)。ジャンルやアーティストを問わず多くの研究者で互いに協力し発表の場を作りませんか。


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