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ことばは世界をデジタル化する

ことばを習得する前の幼い子どもは、世界をありのままに見ている。
夕焼け空のグラデーションに名前をつけずに、あのふわふわの生き物とこのシュッとした生き物を別個のものとして。
連続性のある、境界線のない、個体を個体としてみなすアナログの世界。純粋な世界。

ことばを習得するということは、言語化するということは、アナログだった世界をデジタル化する行為だ。
あのグラデーションに「あお」と「むらさき」の境界線を引く。
そしてまたモノにラベルをつける行為でもあり、世界に存在するモノのカテゴリー化を行うことでもある。
あの生き物とこの生き物を、「わんわん」という一つのカテゴリーに入れる。

これらの行為はひとえに他者とコミュニケーションをとるため。
あなたと自分の知覚する世界をことばによって共有するため。
あの色をあなたに見て欲しくて、それを「あお」と呼ぶことに決める。

言語化することで失われる色がある。個体がある。
それでも子どもはあなたとのコミュニケーションのためにそれらを捨てる。
ことばには恩恵と同時に制約が課されている。
言葉によって共有できる世界が広がる一方で、純粋な感覚や境界のない連続性が犠牲になる。

言語習得とは、大きな成長であると同時に、アナログの世界へのお別れを告げるプロセスである。

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