鍵はデジタル化。危機に瀕する自治体を救う方法とは
PFI・PPPの導入で公共事業の可能性が広がったものの、人口減と施設の老朽化により危機的状況に置かれているという自治体。後編では自治体を救う解決策として期待されるデジタル化について、引き続き特定非営利活動法人 日本PFI・PPP協会の植田 和男会長に話を聞いていく。
自治体におけるデジタル化の必要性とジレンマ
協会が考えるデジタル化による問題解決とは、主に公務員の業務負担の軽減を意味している。「住民税も職員数も減っていく中で地方自治体がやらなければならないのは、より少ない職員で公共サービスを提供できる環境を作ることです。そのために必要なのがデジタル化なのです」と植田会長は語る。
公務員の現場業務は依然として紙に判を押して進行していくようなアナログ手法で行われており、PFI・PPPにおける民間企業とのやりとりでもそれは変わらない。自治体からの発注書も民間企業からの報告書も紙で提出され、会議も対面で行われる。このような手法では時間の面でもコスト面でも非常に負担がかかってしまう。
この負担の大きい業務をデジタルによって簡略化すれば公務員の負担を大幅に減らすことができ、その結果として少ない職員数でも公共サービスを円滑に提供できるようになるというのが協会の考えなのだ。しかし、「この課題を自分事として捉えてデジタル化を進めていこうとしている自治体は、まだまだ少ないように感じます」と植田会長は話す。デジタル化すれば業務量もコストも年々軽減できることには理解を示しつつ、そのための初期費用にばかり目が向けられてしまうため実現が難しいのだという。
「税金で運営される自治体では予算を無駄にできないという考えが強く、“支出を減らすことができる”という保証がないと、一時的に支出が増えるデジタル化にはなかなか踏み切れないのです。しかしデジタル化して管理していかなければ、施設の老朽化問題はどんどん進み、修繕費は大きく膨らんでいってしまいます。老朽化問題を先送りし続ければいずれ施設は使えなくなり、ますます人口減が進んで自治体は存続できなくなってしまいます」と植田会長は警鐘を鳴らしている。
デジタル化推進の糸口となる新方式とは
危機感の薄さや一時的な支出増への拒否感からデジタル化に踏み切れない自治体が多い中、2018年頃に生まれたある新方式によってデジタル化が注目されはじめていると植田会長は話す。
所管課の負担を解消する包括施設管理業務委託
公共事業においてデジタル化が注目されるようになった方法とは、包括施設管理業務委託と呼ばれるものだ。これまで自治体の施設は、例えば小中学校は教育委員会が管理するなど、各自治体の所管課ごとに対象施設が管理されてきた。しかし人口減・財政悪化・施設老朽化問題などにより、この縦割りの管理方法では成り立たなくなってきている。担当する公務員当たりの施設の管理業務がどんどん増え続けることにより、施設管理以外の所管課の従来業務が圧迫されるようになってきたからだ。この状況を解決するために近年誕生したのが、包括施設管理業務委託だ。
包括施設管理業務委託とは、所管課と民間企業との間にいわゆる発注業務を専任で“取りまとめる”課と包括施設管理受託事業者が入り、複数施設を一括して委託契約する方法だ。自治体の中に各所管課の発注業務をまとめて管理する取りまとめ課を設置することで、所管課は手間のかかる発注業務から解放され、本来の業務に専念できる。さらに委託先の選定を包括施設管理受託事業者に委託することで、取りまとめ課の業務負担も軽減できる仕組みになっている。
包括施設管理業務委託で求められるデジタル化とは
植田会長はこの包括施設管理業務委託というシステムが、現在自治体のデジタル化推進において大きな役割を担っていると話す。包括施設管理業務委託では個別発注ではなく公募によって事業者が選定されるため、各事業者が事業を受注するためのアピールポイントとしてデジタルシステムの使用を提案するようになったのだ。
「公募に参加する事業者が提案するデジタル化の方法は、仲介に入る管理事業者がデジタルシステムを活用することで業務の大きな効率化を図ることが基本です。デジタル化を取り入れることで、受注した地元企業はタブレットなどの電子機器から管理事業者および自治体への情報提供などが可能になり、自治体側も地元企業・管理事業者側が入力したデータをリアルタイムでチェックして電子承認することが可能になるなど、双方の業務が効率化されます」(植田会長)
実際に作業する民間企業の作業者と承認を行う自治体の担当者をデジタルシステムによりEnd-to-Endで繋げば、紙と判子で業務を進めるアナログ手法より大幅に業務を効率化できると協会は考えている。さらに植田会長は、「このデジタル化によって起きる最も重要な効果は、各施設の不具合や修繕費用などの情報をデータベース化できることです」と話す。データベース化できるようになることで起きる効果についても詳しく聞いてみた。
公共事業におけるデータベースの活用と EMLinkへの期待
各種公共施設に関する情報をデータベース化することは、公共施設のマネジメントにおいて大きな効果を発揮すると植田会長は考えているという。
公共施設管理におけるデータベースの役割
「公共施設のマネジメントでは、必要な費用を自治体が賄えるのかが重要なポイントになります。しかし直近の公共施設等総合管理計画において、公共施設の将来の維持管理費予測と実際に準備可能な予算の報告が行われたところ、ほとんどの自治体で予算が大幅に不足していることが明らかになりました」と、植田会長は自治体の現状の厳しさを語る。
将来全国的に人材・予算不足が進むことが明らかになったことで、限られたリソースの中でも公共事業を回していくために、国は全国の自治体に対し“公共施設の数、延床面積等に関する数値目標”※1の作成を要望した。
「限られたリソースの中で公共事業を今後も円滑に進めていくためには、“公共施設の数、延床面積等に関する数値目標”の達成を目指すことが重要です。しかし目標達成のためには、どの施設を残し、どの施設を除却あるいは統廃合すべきかを判断するエビデンスが必要となります。データベースはその重要なエビデンスとなり、“合理的根拠に基づく政策立案※2(EBPM=Evidence Based Policy Making)”を可能にします」と話す植田会長。
当然、地域住民の思いや地域の歴史を十分に鑑みる必要はあるが、次の世代に向けて安全・安心で適切に管理されたインフラを残していくためには、合理的根拠に基づいて公共施設を取捨選択していかなければ成り立たなくなっていくだろう。その取捨選択の重要な根拠となるのがデータベースだと植田会長は考えているのだ。
※1 予算内で公共施設を管理していくためにはどれくらいの施設数や面積を軽減する必要があるかを試算した、公共施設の保有総量の軽減目標のこと
※2政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること
EMLinkに寄せられる期待
公共施設の取捨選択を出来る限り合理的に進めていくためには、アセットのあるべき姿を理解し、適切なKPI※3 を置いて施策を実行していく必要がある。そのため植田会長は、アセットマネジメントの観点で作られたデジタルツールであるEMLinkに対しても大きな期待を寄せているという。
「アセットマネジメントの観点から作られているEMLinkには、公共事業計画の重要なエビデンスとなるデータベース作成を担うツールとして大きな期待を寄せています。EMLinkを使用すれば公共施設等総合管理計画などの計画作成も容易になり、さらなる公務員の負担軽減にもつながると思います。シンプルで分かりやすい設計で、デジタルツールに不慣れな自治体職員でも使いやすい点も魅力的ですね」と、植田会長は公共事業におけるEMLinkへの期待を語った。
EMLinkは工場・プラントが抱える老朽化や人材不足などの課題解決のために作られたツールだが、植田会長の話からは自治体も工場・プラントと同じ課題に悩まされていることがよく分かる。当社でもこの自治体の課題が日本社会における重要な問題であると捉えており、EMLinkが公共事業などのインフラ設備の課題解決にも活用されるよう日夜開発に取り組んできた。自治体、ひいては日本社会が置かれているこの危機的状況を救うため、今後もEMLinkは進化を続けていく。
※3 組織の目標を達成するために設けられる“重要業績評価指標”のこと。「Key Performance Indicator」の頭文字を取っている。
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