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フィンランド元首相から学ぶ 「政府とビジネス」

* 留学中のアアルト大学にて, 今月1より, フィンランド元大統領(アスコ・アホさん)が「経営と政府」というタイトルで週1回 x 計6回の講義が開催されています. このNoteでは講演からの学びを共有していきます. 講義は全5回あり, 毎回最も重要な1つのメッセージについて共有していきます. 

講義の目的:なぜ元大統領が学生向けに講義をするのか?

1991年, 36歳で大統領に就任したアスコ氏. フィンランドのGDP成長率が-10%という大不況の時代に政策を担当. 退任後も戦略コンサルタントや民間企業の役員として, フィンランドの経済発展に携わった経験から, 「企業」と「政府」とのコラボレーション, いわゆる官民連携が益々重要となっていると考えている. 企業または政府の一方に視野が偏る前に, その両方を理解しておいて欲しいとの願いから大学生に向けて講義をしている.

第1回の学び: 「CONCEPTとCONTEXTが政治と経営の成否を分ける」

初回の講義を通して最も重要なメッセージは, Context(グローバルな社会変化)の理解に基づく、Concept(新しいモデル)が企業、政府の成否を分けるということ. 加えて, リーダーやイノベーションに不可欠な考え方である. 変革を起こすためには必ず新しいコンセプトが必要である.  それを端的に表した言葉が

“You never change things by fighting the existing reality. To change something, build a new model that makes the existing model obsolete.” 「今の現実と闘っていては何も変えられない. 変革を起こすには, 今のモデルを廃れさせる新しいモデルを打ち出すしかない. 」R. Buckminster Fuller

企業の例で言えば, ノキアが凋落した1990年代, ソフトウェアの代となった時に, 自社の強みであるハードウェアばかりを考え,タッチスクリーンなどの技術開発に投資を行い失敗した. Context(社会変化)を踏まえた新しいConceptを構築し実行することができていなかった.

国(政府)の例を挙げると, ソビエトの教育は1970年代上手くいっていたが, ソビエトがアメリカに技術革新, 経済の面で大敗した理由は, まさに"CONCEPTUAL CHANGE"に対応できていなかった. ソビエトは世界で何が起こっているか分かっておらず, グローバリゼーションが急速に進むとは考えていなかった.

一方, 中国が台頭している理由は, グローバリゼーションとテクノロジーに対して, 国をオープンにしたことで成長が進んだ。鄧小平が毛沢東の死後, 中国再建に取り組んだ際に掲げたコンセプト

"It does not matter what color the cat is, as long as it catches the mice" 「どんな色の猫かは関係ない。ネズミを捕まえさえすれば。」

に代表される. Contextというのは社会の変化を捉えるということ. 

「アメリカ空軍のモデル:OODA LOOP」

コンテキストを踏まえたコンセプトを構築するための手法として, OODA Loopを紹介していた. Observe, Orient, Decide, Act. Observe(観察)によって, 周囲で起きている条件を適切に捉え, Orient(状況判断)によって, 方向性を決める. Decide(決定)によって, 不確かな状況でも最善の判断を下す. Act(実施)によって意思決定を実際の行動に写す. Loop(ループ)で再び観察に戻り, 行動の結果を判定し次の状況判断をする.

これはデザイン思考モデル(観察→デザイン方向性決定→問題の定義→アイデア→プロトタイプ→テスト→繰り返し)とも近く, より柔軟かつ素早く変化に対応できるリーンの思想が入っていることに共通点を感じた. 社会の変化がデジタルの急速な普及によって, 速くなっていることと相関していると仮説を立てた.

「コンテキストを変化させる5つの要素」

コンテキストを捉えることが最も重要であり, コンテキストの重要な変化として, 5つの要素(テクノロジー, 人口統計学, 地政学, グローバリゼーション, サステイナビリティ)がある. サステイナビリティと人口統計学の視点で言えば, 世界の多くの国では少子高齢化が進んでいる. 寿命の伸びと同時に, 人生100年モデルが必要である. 政府がなければ課題解決はできないし, ビジネスも重要な役割を担っており, この両者がコラボレーションすることが益々重要となってきている. では, これから重要となってくる変化を捉えるためには未来のテクノロジーとその影響を予測することが不可欠である.

「未来のコンテキストに影響するテクノロジー」

GPT: General Purpose Technology(汎用技術)が未来のコンテキストに大きな影響を及ぼす. 例として、Digital Age and Circular Bioeconomy, The Internet, Smart phones, Big Data, Artificial intelligence, Blockchain, New materials, Nanotechnologyが挙げられた. 特に面白かったのは, デジタル化は進んでおりスマートフォンで多くのことができる世の中となったが, 現実世界への影響はまだまだ限られているが, 現実世界との接点が大きい産業がデジタル化を進める中で, 5-10年後に現実世界へ大きなインパクトが出てくることは間違いがないと言っていた. Healthcare, 教育などの分野で構造が変わってしまうほどのイノベーションが起こる可能性を指摘していた. 

「Shared Value Thinking(社会xビジネスの共有価値思考)」

ビジネス側が果たすべき, 社会から求められている役割として, Shared Value Thinkingの考え方が説明された. 政府と企業が社会に果たす役割として, 企業が果たす役割が大きくなっているというような説明をされた. 企業は国民のために奉仕を行うボランティア活動という段階から, 社会的責任(CSR)の考え方へ, そして現在は(まだ多くの会社が考え方を理解していないが)Shared Value Thinkingの時代へとなっている. 私の考えでは, Shared Value Thinkingつまり人々に価値を提供することが企業の持続的な経済活動に直結するような第3の時代になってきているからこそ, デザインなどを通して, ユーザーへ価値を提供することがよりビジネスの競争力となっている.

「これからのShared Valueを実践する上での課題」

Silver Economy(少子高齢社会), Social and health costs(社会保障とヘルスケアのコスト), Climate change(気候変動), Education(教育の格差), Waste Management(廃棄物処理の管理), Security and privacy(セキュリティとプライバシー)の5つを挙げていた。逆に言えば, これらはShared Valueを実践する企業としての, ビジネスチャンスである.

素晴らしいマネジメントの最低条件=ジェネラリスト

最後に, 人生設計のアドバイスをメモっておくと. 素晴らしいマネジメントになる最低条件は, ジェネラリストであることと言い切っていた. 組織の中では専門性を突き詰める(スペシャリスト)ことをしばしば求められるが, 40歳, 50歳を過ぎてマネジメントとなる頃に急にジェネラリストであることを求められる. 専門性を突き詰めて思考が狭くなる前に, 政府の観点とビジネスの観点の両方を理解することで, 両者のコラボレーションが不可欠な社会課題の解決に取り組んで欲しいというメッセージ. 加えて, ジェネラリストになるためのコツとして, open-mindedであること, 働く経験を持つこと, 若くても俯瞰して勉強する時間を設けること. 20代でも目の前の仕事を一旦脇に置いておき, 大学で学ぶことを推奨していて, 例としてアメリアのマネージャーは数年から10年働いてから修士課程を取りに行って満足できるまで徹底的に勉強するという話をしていた. 元大統領からこのような柔軟な人生設計モデルが示されることは素晴らしい事だと感じた. 

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第2回講義のタイトルは「エコシステムのイノベーション:デジタル経済と生物経済」でした。早速、今回の学びから書いていきます。

第2回の学び:「標準化から個別最適化の時代へ」

簡単に結論から書くと、鉄道や工場などによる大量生産による標準化と効率化を求めた時代から、デジタルによる個別最適化されたサービスが主流の時代へと変化しているという話。その個別最適化を実現するために、エコシステム戦略が必要であり、それを実現するために8つの鍵となる要素がある。

「技術発展の2つのステージ」

まず、技術発展の段階を第1ステージと第2ステージに分けて考える。第1ステージは産業革命以降の技術発展を「第一機械時代(ファースト・マシン・エイジ)」と捉える一方、今起こっている技術変化を「第二機械時代(セカンド・マシン・エイジ)」と定義し、コンピュータをはじめとするデジタル機器の発展と定義する。参照:The Second Machine Age

「第1ステージ:大量生産、標準化の時代」

第1ステージで重要な役割を担ったGPT (General Purpose Technology)は現在ではインフラとして考えられている技術群であり、産業全体の「効率性」と「成長」を加速させた。中でも、鉄道ネットワーク、電気、車の社会への貢献は凄まじかった。なぜなら、その他全ての産業の効率をあげたから。例えば、鉄道ネットワークは既存のビジネスに巨大な便益をもたらした。速度、低コスト化、予測可能なスケジュール、止まることはない。より具体的には、鉄道ネットワークは以下の産業にRadical Changeをもたらした:農業と食品加工、林業、鉄の製造、石油産業(石油ビジネスと化学産業を結びつければ大きな産業ができるとロックフェラーは考えた)、リテール(鉄道が大量生産を可能にした。大量生産は大量に物流が必要となる)。この鉄道システムで鍵となったエコシステムは、インフラへの投資、ファイナンシング、標準化(仕様書)、教育(専門教育とスキル)、通信サービスであった。第1ステージをざっくり表現すれば、インフラによる産業の効率化、標準化が進んだ時代であった。「人間の物質的な能力を拡張した時代」

「第2ステージ:デジタル化による個別最適化の時代」

第2ステージのゲームルールは 、"Human beings go beyond its brain capacity「人間は脳の限界を超えていく時代)」"と表現される。最も大きな変化は、標準化から個別最適化(パーソナライゼーション)へと向かう(向かっている)こと。例えば、教育。1人の先生、1つの教室、1冊の本という第1ステージとほとんど同じコンセプトで教育はまだ動いており、教育のレベルは指導者に大きく依存していると言える。現在、急成長中のEdTechの領域に代表されるように、個人個人の進捗と能力に応じたパーソナライズされたデジタル教育が普及しつつある。他には、ゲームを使った学習も伸びてきている。特に、男性はゲームをしながら学ぶのが得意であると言われる。簡単に言えば、学習プロセスがデジタル化によって個別最適化の方向性へと劇的に変化する。他の例はモビリティ(交通)。行きたい場所まで個別最適化された移動手段が実現されていくだろう。靴も大量生産型から、個別最適化へと進んでいる。アディダスはバングラデシュの生産拠点を、先進国へ戻した。理由は、アディダスは3Dプリンティングを用いた測定、製造を通して、個別最適化された靴の販売のために動いているから。

第2ステージのその他の特徴としては、エンターテインメントが急激な変化をもたらしていること(例えば、音楽、ゲーム、ソーシャルネットワーク)。より複雑なエコシステムが必要とされていること(例えば、金融サービス、ロジスティックス、教育、ヘルスケア)が挙げられる。

「第2ステージの鍵となるエコシステム8つの要素」

第1ステージからゲームチェンジが起こり、現在も進行している。この中で、企業(と政府)が事業を成功させる鍵となる要素は次の8つ。かいつまんで説明をされた。1. テクノロジーへのアクセス 2. 才能とスキル 3. リスクの許容度 4. 標準化 5. プラットフォーム 6. PPP (PUBLIC - PRIVATE - PEOPLE=政府x企業x消費者) 7. 安全とセキュリティ 8. リーダーシップ 

「民間企業のテクノロジーの基礎研究は政府の関与が不可欠アクセス」

1. テクノロジーへのアクセスについては政府の関与が重要。なぜなら、企業は テクノロジーの横串(既に存在する技術を組み合わせて商用化する)は得意であるが、テクノロジーの縦掘(長期的、お金がかかる)には非積極的。政府が支援するしかない。既に利用可能なテクノロジーのビジネスへの転用は民間企業が力を入れる。一方で、テクノロジーの深堀りは長期的な視野と、膨大な資金が必要であり、民間企業は研究開発への投資を進めにくい。そこで、政府が研究開発費の助成や税金の割引によって、研究開発を推し進める必要がある。フィンランドは世界で最も大学と企業の連携が進んでいる国に選ばれており、その理由として、1980年代からTekes (Business Finlandという半官半民のファンド) を通して、GDPの約3.5%を研究開発費に回してきたことが挙げられる。

「デジタル化の時代に求められる才能とスキル」

デジタル化の時代、特にエコシステムのイノベーションに必要な才能とスキルは2つ。Multi-disciplinary Capavilities (専門性を横断する力)と, Mobility (流動性)が必要。技術発展の第2ステージでは、個別最適化が必要であり、個別最適化を実現するためには、エコシステム(複数の専門性や組織の協力)が不可欠である。そのため、複数の領域を理解して、事業を推進する人材の育成が肝要である。例えば、ヘルスケア。患者の情報をどう電子化するのかが課題である。技術時代はそれほど難しくないが、ICT (情報通信技術)の専門家が、病院で起きているオペレーションや仕組みを理解してケースは少ない。また、病院の担当者がICTを理解していない。その両者を理解でき結ぶつけ、プロジェクトを推進する人材が必要。そのためには、複数の組織を横断して経験する人材が必要であり、人材の流動性、例えば、政府で働いてから民間企業でビジネスをやるといった経験と能力を持っている人材が必要である。生物経済という新しいホットなビジネス領域では、今、生物経済という修士課程は存在していない。求められる能力は、マーケティング、情報通信技術、材料工学、マネジメントなど様々であり、これらを全て理解して結びつける必要がある。

「デジタル化の時代の事業には、企業 x 政府 x消費者の連携が必要」

最後に、PPP (Public-Private-Partnership: 官民連携)を文字って、元大統領はこれからの時代の事業成功に欠かせない要素をPPP (Public-Private-People=政府-民間企業-消費者)と考えている。個別最適化の時代となり、消費者目線のサービスがどんな業界にも欠かせないものとなっている。大量生産の時代には、標準化された商品をいかに多く安く、効率的に生産するかが成否を分けたが、個別最適化の時代には、消費者が果たす役割が重要となっている。個人の意見として、人間中心のビジネス開発の方法論としての、デザインが注目を浴びている理由をシンプルに力強く説明していたように感じた。

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