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イノベーティブな発想を生む無意識バイアスを崩すとは
「知らないうちに、みんな同じような考え方になっていませんか?」
デザイナーの新入社員研修の最終プレゼンで、投げかけられた問いでした。テーマは「2030年の未来を描いて、新しいサービスを提案すること」。
未来の可能性は無限通りにあるにもかかわらず、5つのチームから最終的に出たサービスアイデアは、どこか似通っていました。
その時、思い浮かんだのが「あっ、無意識にこう考えるという思い込みや偏見が、新入社員の頭に共通して作られているのかもしれない。」ということでした。ここで思い出したのが、イノベーションの第一人者として知られる濱口秀司氏の「デザイン思考」を超えるデザイン思考という論文です。
2016年4月号のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに掲載された35ページほどの論文ですが、イノベーションはバイアスの破壊から生まれるという観点から、一般的に知られるユーザーファーストのデザイン思考とは全く反対のアプローチについて解説しています。
人の頭の中には、「これはこう考える」という一定の先入観を意味するバイアスがある。それに沿ってアイデアを生み出すと、すでに見たこと・聞いたことがあるものになってしまうため、停滞した業界にシフトを起こすような画期的でイノベーティブなアイデアをつくるには、このバイアスを破壊しなければならない。
サービスアイデアがどのチームも似通ったものになったように、人の頭の中にはunconsicous bias(無意識の思い込みや偏見)が存在し、どこかで見たこと・聞いたことがあるものに偏りが生じてしまい、イノベーティブな発想をすることは容易ではありません。
イノベーティブなアイデアを生み出すためには、このunconsicous biasを「意識化」し、意図的に崩していく必要があります。
UNCONSIOUS BIAS(無意識のバイアス)とは
私たちが無意識にあるものを「意識化」するためには、まず、無意識のバイアスが何かということを理解する必要があります。
ここで、アメリカ空軍のパイロットの選考についての例をご紹介します。
第二次世界大戦中、アメリカ空軍から依頼されて、心理学者のギルフォード博士が爆撃機のパイロットを選抜する任務を任されました。彼は、元司令官のベテラン・パイロットが選抜するタイプとはまったく違うタイプの人間を選びました。
結果は、心理学博士の選んだパイロットはことごとく撃墜されていたことが判明しました。一方、元司令官の選んだ人材は抜きん出て優秀でした。結果は、心理学博士の選んだパイロットはことごとく撃墜されていたことが判明しました。一方、元司令官の選んだ人材は抜きん出て優秀でした。
この違いは、「ドイツ軍の射撃があったら、どう対処するか?」という問いに対して、心理学博士は「上昇します」とマニュアル通りに答えたパイロットを選出したのに対し、元司令官が選んだパイロットは「ジグザグ飛行を始めます」といったマニュアルにはない、いわゆる「間違った」答えを出した人たちでした。その理由は、マニュアル通りに行動する兵士は意外性に欠けており、予測されやすい(爆撃されやすい)からでした。
その理由は、マニュアル通りに行動する兵士は意外性に欠けており、予測されやすい(爆撃されやすい)からでした。
このストーリーから読み取れることとしては、私たちはいわゆる「正解」を探すことを教育や会社などで訓練されており、unconscious biasとはマニュアル通りの答えに考えが無意識に縛られてしまっていることであり、いかにマニュアルや規則をいかに破壊していくかがイノベーティブな発想に繋がるということです。
Google検索で、unconscious biasと調べると、たくさんの心理学的な知見が見つかります。例えば、ジェンダーバイアス、親近感バイアス、ハロー効果など、私たちが陥りやすいバイアスの事例があります。この手のバイアスについて知りたい方は、有名なファスト&スローという本に詳しく解説が載っています。
しかし、イノベーションの観点から「バイアス」を考えてみると、心理学の知見というよりも、より具体的で実践的に、どのように、私たち創り手側のバイアスを認知するのかが重要です。
基本的な条件(仮定)を書き出す
私たちの無意識にある思い込みを崩す方法として効果的なのは、ある活動に要求される(と思う)基本的な条件(仮定)をすべて書き出すことです。
基本的な条件というのは、そのアイデアに必ず必要だと思っている仮説のことです。例えば、新しいコーヒーショップを考えるのであれば、お客さんがくつろぐ、コーヒーを座って飲む、リラックスする空間など、私たちが意識的あるいは無意識に考える条件を書き出します。
1つ面白い例を紹介します。私の大好きな本「スウェーデン式アイデア・ブック」に出てくる「はてなタクシー」という事例です。
スウェーデンの首都ストックホルムでは、タクシー運転手がいつも不足気味で、それがタクシーの台数不足、ひいてはタクシー待ちの長い行列(非常なイライラ)につながっていました。
車を運転することができる失業者は大勢いるにも関わらず、タクシー運転許可証の発行のテストが難しくドライバーはなかなか増えませんでした。
そこで登場したのが「車の免許をもつ失業者が運転するはてな(?)タクシー」でした。一見、普通のタクシーですが、道に詳しくないため、行き先も道順もわかっているときだけ利用するタクシーです。運転手に道順を教える代わりに、料金の8割で乗車できるという仕組みでした。
この事例で考えられているタクシー運転手に要求される基本的な条件は
①道路に詳しく
②車の運転ができる
の2つでした。
このうちの1番の道路に詳しいという条件を取り除いて生まれたのが「はてなタクシー」というアイデアでした。
この例のように、私たちが「当たり前」だと考えていることを書き出して、その条件をあえて崩してみることで、画期的でイノベーティブなアイデアが生まれる可能性が高まります。
2軸でマッピングする
はてなタクシーの例のように、基本的な条件を絞り込むことができていれば考えやすいのですが、新規事業など、ビジネスの現場に当てはめて考えるとより複雑な条件を考える必要が出てきます。
そこで用いるのが2軸マッピングによる整理です。
新規事業の例でいえば、ビジネスを成功させる鍵である「顧客体験」「ビジネスモデル」「テクノロジー」の3つの項目にわけて、顧客が使用しているプロダクトやサービスについて、2軸で整理をしてみます。
例えば、タクシーの例を考えてみます。
現在、当たり前として考えられている条件を2軸で考えると、ビジネスモデルでいえば「従業課金 x 都度払い」が一般的で、顧客体験であれば、「男性ドライバー x 少人数」、テクノロジーであれば「マニュアル x その場現金」が普及している形式でしょうか。
ここで書き出した全てをイノベート(現在の条件とは異なるもの)していくことが最も画期的なアイデアとなりますが、あまりにも突拍子もないものになりがちなので、このうち1つの条件を変えてみます。
例えば、ビジネスモデルを前払いの固定金額(つまりサブスク)に変えて、発想してみます。すると、専属ドライバーとの契約のような形になりますがより一般人でも使えるような公共交通機関のサブスク(月額課金制)というアイデアが浮かびます。
私が住んでいたフィンランドにあるwhimというサブスクでバスや電車、トラムが乗り放題で、タクシーは一定距離まで乗り放題というサービスを提供社がありました。日本でも徐々に普及しているMaaSという新しいコンセプトです。
このように、現状考えている条件を2軸で整理し、あえて、外してみる事で新しいイノベーティブなアイデアが出てくる確率が高まります。
そしてこのプロセスは、まさに、私たちのunconscious biasを意図的に崩す取り組みを再現していることになるのです。
まとめ
・Unconscious biasとは私たちが正解を求める思考の癖から、無意識に縛られてしまっている思考の枠のことであり、
・効果的に破壊するためには、私たちが当たり前だと考えている基本的な条件を書き出し、その条件を取っ払ってみること、
・新規事業などの複雑なケースでは、重要な要素である顧客体験、ビジネスモデル、テクノロジーについて2軸でマッピングし、意図的に別の象限でアイデアを考えることで、思考の枠が外れたイノベーティブなアイデアを生み出す確率が高まる。
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「どれだけ新しい発想ができるか」新常態(ニューノーマル)に移行する時代だからこそ、求められている能力であり、スキルだと考えています。創造性は先天的なものではなく、思考の癖を理解したり、フレームワークを利用したり、何より日々実践していくことによって、鍛えることができるのではないでしょうか。このnoteでは、フィンランドでのデザインやイノベーション教育の経験、また、現在仕事にしているビジネスデザインから得られた知見をお伝えしています。よろしければ、いいねやフォローをお願いします。
カバー写真:ノルウェーでの旅行中に撮影
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