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メガトレンドとエクストリームケースの交差点から事業機会を創出する【北欧のイノベーションに学ぶ】
猛威をふるう新型コロナウイルスに慣れつつある今、我々の生活は、感染拡大する前にはなかった、新しい日常(ニューノーマル)を迎えていると思います。
出掛けるときは「密でないか」が頭をよぎる。人と会うときはテレビ会議が基本。外食はせず、テイクアウトやウーバーを使って自宅で食べる。これは、日本に限ったことではなく、世界全体で「社会のメガトレンド」として起きている現象だと思います。
そして、このwithコロナ時代に迎えつつあるニューノーマルを事業機会として捉えているスタートアップは、約6割にもなるそうです。
私が留学していた北欧フィンランドでは、国が力を入れて、「社会のメガトレンド」から始まるイノベーション創出に取り組んでいます。また、デザイン思考でいうエクストリームケース(まだ一般的ではないが極端な事例)を組み合わせることで、事業機会を発見することを捉えています。
例えば、政府系投資ファンドのSitraは年に1回メガトレンドカードと呼ばれる社会の未来を描いたカードを発行し、スタートアップや大企業に活用を促しています。また、イノベーション創出のためのネットワークを構築しているDemola社は、メガトレンドから企業が取り組むべき課題へと落とし込むフレームワークを採用しています。
今回の記事では、私がフィンランドで学んだこと、ビジネスデザインの経験を踏まえて、社会のメガトレンドとエクストリームケースを組み合わせることで事業機会に落とし込むデザインアプローチについて、まとめます。
4つのステップに分けてお伝えします。
全体像
前提として、プロダクト・サービス開発に行くもっと手前の「事業機会」を定めるまでのアプローチになります。
社会トレンド起点の事業機会デザイン
図に示したように、思考を発散させていくフェーズと、分析をしてまとめていくフェーズが交互に来ながら、最終的に、「事業機会を言語化したもの」が成果物となります。
特徴的なのは、マクロな社会のメガトレンドと、ミクロな生活者(従業員など含めた人)の行動様式を組み合わせて、機会を発見するというアプローチになります。
社会のトレンドから事業機会にするアプローチあるいは、ユーザーの極端な事例から事業機会にするアプローチはありますが、今回お伝えするように両方を組み合わせるものは少ないと思っています。
この考え方は、以前ご紹介した意味のイノベーション研究から着想を得ています。宜しければ、お時間あるときに読んでみてください(記事)。
1. メガトレンドをいくつか選ぶ
まず、ご自身が気になっているメガトレンドを選びます。コロナウイルス関係であれば、密を避けた距離のあるコミュニケーションなど、好きなものを選びます。
もしパッと思いつかない場合は、次のような方法で考えられます。
・ニュース記事や雑誌などをパラパラと見ながら、気になったところにメモをとる。そこから見えてくる共通の社会トレンドを選ぶ。エコノミストや日経新聞、各種雑誌など。
・先ほど紹介したSitraが発行するメガトレンドカードから気になる社会現象を選ぶ。
ここでは説明のため、航空会社の新規事業担当として、「地球温暖化」を選ぶことにします。
2. コンテキストを設定する
次に、その社会トレンドから影響を受けそうなコンテキスト(生活文脈など)を考えます。
社会トレンドといったマクロな環境変化が影響を与えるわれわれの生活や、ビジネスがターゲットとする場面を想像してもらえば大丈夫です。
複数のコンテキストを設定してもOKです。
航空会社の例でいくと、ビジネスパーソンの海外出張の空港での体験をコンテキストに設定してみます。
コロナウイルスによる距離のあるコミュニケーションの場合、職場でのマネジメントという、コンテキストなど自由に決めてください。
3. エクストリームケースを考える
ここがこのアプローチの特徴的なステップとなります。1. で考えた社会トレンドに関係があると思われるエクストリーム(極端)な事例を探します。
エクストリームとは、少数派だけども、新しく現れ始めているユーザーの行動様式や価値観のことです。
例えば、新型コロナウィルスの影響で、おしゃれでポップなマスクをつけている人。あるいは、リモートワークで働く部下の健康を気遣い体温を毎日報告させているマネージャーなど。
事例は日本だけに留まらず、海外の極端な反応を示している例を持ってきても構いません。航空会社の事例でいくと、「パパが海外出張に飛行機で行くことを娘に自慢したら、娘がダサい‼︎と怒ったこと」などです。これはスウェーデンの事例で、子どもは二酸化炭素の排出量が多い飛行機に乗ることを恥ずかしいことだと考えており、ブラックカード(海外出張が多いビジネスマンのステータス)も、ダサいと感じるようです。↓Fight Shame(飛び恥)と呼ばれる現象です。
このように、エクストリームケースを考える理由は、「未来に関する洞察」を得るためです。社会のメガトレンドというマクロな動きと、エクストリームなユーザーというミクロな動きがクロスして、ちょっと先の未来に対するチャレンジを導き出していきます。
社会トレンドとエクストリームケースを使って未来洞察をデザイン
このステップで、エクストリームケースを考える際は、何人かでディスカッションしながら、どのケースが興味が惹かれて、どのケースが面白くなさそうかを考えます。ここで、なぜ、そのケースに興味が惹かれるのか、面白くないのか理由についても言語化してメモしておくといいです。
最終的に、次のステップで使うエクストリームケースとして、1個〜3個ほどに絞ってください。
4. 機会としてチャレンジを定義する
1〜3番までのステップで、社会のメガトレンド、生活のコンテキスト、エクストリームケースが揃いました。
最後のステップでは、この3つとディスカッションを踏まえて、事業機会として捉える「チャレンジ」に落とし込んでいきます。
チャレンジは、HMW (How Might We~)あるいは、What If のかたちでまとめるといいと思います。
・「どうすれば、われわれは〜という制約を考慮しながら、〜という課題を解決することができるだろうか?」または、
・「もし、〜の未来が当たり前の世の中になったら、われわれは〜のコンテキストに対して、どのようなサービスを提供するだろうか?」
という形で、この問いに応えるソリューションが事業コンセプトを導くように整理をします。
そのために、3番で探してきたエクストリームなケースが、一般的になったとしたら、どうなるだろうか?(what if)と考えることが有効です。
航空会社の事例でいくと、
もし、飛行機に乗ることをダサいと思う事が当たり前になったら、航空会社は、どのように、ビジネスパーソンの空港での体験を心地良いものにすることができるだろうか?
新型コロナウィルスのコミュニケーションの例でいくと、
もし、リモートワークで働く社員が健康管理の報告を会社から義務付けられたら、企業で働くマネージャー向けにどのような新しいサービスが提供できるだろうか?
などの機会定義ができるかと思います。
選んだ社会トレンドや、エクストリームケース、コンテキストを組み替えれば、いくつもの機会定義が生まれてきます。このうち、自分が取り組んでみたいと思えるテーマで、プロダクト・サービスを考えてみる、事業企画を練ってみるという使い方ができると思います。
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ニューノーマルの時代と言われるように、社会変化の速度はますます激しくなっており、このマクロな変化を事業機会に捉えようとしている方は多いと思っています。今日は機会定義のところまででしたが、エクストリームなユーザー(B to Bであれば企業でもOK)を交えながら、未来への洞察を得て、事業を考えることができるのではないでしょうか。参考になれば幸いです。
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