どこを見るかはあなた次第。何を感じるかもあなた次第なんだね。
目を凝らしてじっくり見る。ボォ~と見る。
全体でとらえたり、一点に集中したり、角度を変えたり、時には視覚だけに捉われず、聴覚に頼ってみたり。
たまに行くスーパー銭湯でのこと。
その日はたまたま屋外に設置してある”寝そべるベンチ”に丸裸で横になった。
私の目の前には、優しい木陰を提供してくれる立ち木があり、その木を私は眺めはじめる。
葉が風に揺れ、その向こうに晴れた夏の真っ青な空が透ける。
ぷかぷかと浮かぶ白い雲がゆーっくりと風に流されていた。
だんだんと陽が頭上に昇りはじめ、その薄っすらとオレンジ色と黄色が混じった陽の光が、葉の間から私の顔にキラキラと降り注ぎ当たる。
その葉に視線を移すと、葉の裏のきみどり色の葉脈がくっきりと力ずよく伸び、葉の緑をイキイキとさせていた。
”葉の葉脈ってどれも同じなのかしら?”
何となく気になって何枚かの葉を見比べていると、葉と葉の間に緑色の実がなっていることに気付く。
「へぇ~、この木って実がなる木なんだぁ~」と発見にこっそり喜んだ。
すると、その実の向こうの葉の裏に、セミの抜け殻がくっついて揺れていた。
細い枝や他の葉の裏にもセミの抜け殻がいくつもあり、実もたくさん発見し、幹にはアリが上へ下へと行き交っている。
陰を落としていただけの立ち木のはずが、どんどんとその中のひとつひとつのディテールに目が行き、さまざまな出来事を発見し始めたのだ。
突然、この1本の木に力と生命と成長と、営みをしっかりと感じる。
虫たちを許容し、私に陰を与えながら私を見下ろす1本の立ち木。
風が葉をカサカサとこすれ合わせ、それもまたささやきに聞こえるではないか!
どこにも顔がある訳ではないけれど、優しく微笑みかけられているような、そんな気持ちにさせられた夏の土曜の朝のスーパー銭湯であった。