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強烈な問題提起作品 「シビル・ウォー」が突きつけるもの 脚本編(少しネタバレ)

「アート」”は“問題提起”、「デザイン」は“問題解決”だとすれば
映画の本質の一面は“問題提起”ではないかと考えてきました
最近では「関心領域」が提示する“問題”がひどく私を打ちのめしました
本日一般公開の「CIVIL  WAR」を観てきましたが
「これを目にしたあなたはどう思うのか?」
そうアレックス・ガーランドに問われている気がしています

【備忘録】脚本について:スタバで感じた事を忘れないうちにメモ

ポストカードを頂きました

【全体を通して感じた事】
架空の話ではあるが、ここで描かれていることはまさに今
世界中で起こっていることだ
「争いの真の原因」などわからない、誰と戦っているのか判然としない
そんな紛争・戦争があちこちで現実に起きている
わけもわからず多くの人間が殺されていく
大半の人々の本心は自分に降りかかってこなければそれでいい
「無関心」「無頓着」であり「不勉強」で「想像力が欠如」している
私もです…

【各シークエンスで感じた事】
1. NYのデモ中の爆発シーン:“プライベート・ライアン”の冒頭
 オマハビーチでミラー大尉が爆風で飛ばされて鼓膜が麻痺し
 一瞬静寂に包まれて周りの風景がスローモーションになるシーンを
 思い出させる ヘルメットが飛ばされトム・ハンクスが海水でずぶ濡れ
 になり前髪がQPのように額に張り付いている名場面
2. ガソリンスタンドでのリンチ:隣人や友人が容易に敵になり平気で
 痛めつけ殺す  ルワンダやボスニアなどでよく見られた状況だ
3.  戦場では敵とコミュニケーションは取れない:
 戦闘中に手を上げても、撃つなと叫んでも、負傷して呻いても伝わらない
 敵はまず撃って抵抗できないようにしてから確認する
 「話せばわかる」はまったく通用しない
4. 途中の村で狙撃されるシーン:敵の姿が見えないシチュエーションが
 “フルフルメタル・ジャケット”「狙われたから俺たちも狙う」
 勝手に戦っている状況は“地獄の黙示録”のド・ラン橋のシーンと相似形
 「指揮官を知っているか?」「誰だ、指揮官って?」
 ※民家から撃ってきている腕のいい狙撃手は、イラクかアフガニスタン
  などで戦闘経験のある元陸軍のスナイパーかなぁ、などと想像
5. 走行中の車同士で乗り換えるシーンは“フットルース”(一瞬だけ楽しい)

クレージーなアリエル / フットルース

6. 日本人として究極に恐ろしいシーンを淡々と描いている
 自分が撃たれている気がした
7. シャーロッツビルの西部勢力軍の前線基地の場面は“1917”の冒頭のよう
 田舎道のドライブ風景からカメラが引いていくと軍の集積地が見えてくる
 空には数多くの戦闘ヘリとジェット機がD.Cに向かって飛んでいく
 そこはまさに最前線
8. ジェシーがどんどん成長し、戦場カメラマンの才能を開花させていく
 何かと引き換えに冷徹な記録者になっていく  リーの指導の賜物か
 それともリーもかつてそうだったように悪魔と取引をしたのだろうか
 一方で指南役だったリーは“人”に戻っていく…
9. ジャーナリズムの欺瞞、限界、信頼感の欠如、承認欲求、公平・公正とは

手を差し伸べるべきか、シャッターを押すべきか

10. “正義”という名の“悪” 正義の反対にあるものは「もう一つの正義」
11. このような状況の背景に「経済の破綻」があることが分かる
 なぜポピュリズム的な政策を訴える大統領を国民は選択したのか
 人は「アナタは〇〇の被害者だ!」というような分かりやすい話を
 繰り返し大きな声で訴える“扇動者”に容易になびく
 それはいつの時代も経済的な困窮から発生する
12. 大統領を排除した後、独立軍はどうするのか?
 その後アメリカはどうなるのだろうか? 想像するしかない
13. エンドロールの背景は、まるでフセインやビンラディンを殺害した
 後の状況を彷彿とさせ、背筋が冷たくなってくる

NYからD.Cに向かう道すがらに流れる曲は当時の時代背景やアメリカ各地の
風土・文化を理解しているとより意味深い

SUICIDE  Dream Baby Dream

マスコミや評論家は米中対立やウクライナ侵攻、パレスチナ問題、
アメリカ国内の対立などを「分断」という二文字で表現します
そして分かりやすい二項対立として説明する事が多い
しかしそこにリアリティが全く感じられない
論じてはいるがその実「無関心」で「無責任」なのだろう
この映画はその「分断」の帰結の一面を示している
分断とは「共和党vs民主党」「カトリックvsプロテスタント」
「白人vs有色人種」「住民vs移民」「資本家vs労働者」というような
単なる二項対立ではない
『俺たちvs俺たち以外のあいつら』という歪んだ排外主義の蔓延だろう
私がこの映画を観て感じた“恐怖”はそういった実社会のリアリティだ
「関心領域」で感じた歴史的事実の恐怖と通底している
この映画の凄さはこういった問題をほんの109分で提示していることだ
最近の映画では珍しい短さだ 2時間弱の“ポリティカル・ホラー”だ
監督・制作陣のクリエイティビティに脱帽です

映画のストーリーや映像・音響の話をしたかったのですが
別のnoteにします
一言だけ「Dolby Atmosなめてました」
すごかったです

【Additional comments】

帰ってきたヒトラー(Er ist wieder da)
2016年  独  ダーヴィト・ヴネント監督
U-NEXTで見直しました
最近の欧州の状況をネットやTVのニュースで
見ていると、こういった映画がとても怖く感じます
人の心の奥底には何が滓のように溜まってるか
傍目からでは確認しようがありません
悪魔はそこにそっと忍び寄って耳元で優しく分かりやすく
不平や不満を掬い上げる言葉を囁いてくるのでしょう

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