338.みなえみ日和1 ~ちょっとだけ熱い~
(ちょっとだけ熱い)っていいな。
ミツバチが追いかけられるくらいの速度で。
チワワが疲れない程度の速度で。
ちょっとだけ熱い気持ちで。
自転車をこぐ「みなえみ日和」
(本文より)
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「中身は変わらないのだから、見せ方は必要ない」とか、「見えないところが大事なんだから、見せなくてもいい」などと、自分に関しては思っていたけれど、そうじゃないかもしれないって思い始めた。
(自分や、自分から生まれるものを、もっと、大事に、もっとていねいに扱おう)
(雑に扱うのではなく、ひとつひとつ、箱に入れたり、包んだり、リボンをかけたり)
(ひと手間かけて、磨こう)
(自分から生まれるものを、リスペクトしよう)
そんな、漠然とした思いにスイッチが入ったのは、「かわいいかたち」に出逢ったからだ。
◆微熱山丘
台湾のパイナップルケーキのブランド「微熱山丘」のイベントショップ。
足を止めずにはいられない、そのディスプレイ。
細かい格子のついたバナナワッフルクッキーは、型抜きになっていて、抜いて遊ぶだけならさほどでもないけれど、それがコーヒーカップのふちにかけられている。
(そのかわいさ!)
なぜかこのとき、それは「バク」だと思い、誰かといっしょに共有したいと思い、(絶対に買おう。友達のぶんも!)と、即決。
「微熱山丘」というブランド名は、脳が勝手に「情熱山脈」と変換している。
その後、ショップのお姉さんから、型抜きされているのは「バク」ではなく「バナナ」、「情熱山脈」ではなく「微熱山丘」
台湾語の発音が難しいので、その意味を英語で表し、「Sunny Hills」としていると教えてもらう。
イラストが、かわいい。
自転車に乗っている男の子と、後ろから追いかける犬と、みつばち。
「山丘」が、またもや「山岳」に脳内変換し、私の頭の中は「ツール・ド・フランス」のサイクルロードレースの映像がまわっているのだけど、イラストの光景は、とてものどか。
うしろを追いかけているのは、自転車愛好家のオーナーさんの愛犬のチワワで、ミツバチは、パン職人だった叔父さんが、はちみつケーキを焼いていたことに由来するのだという。
おまけでついてくる冬季限定デザインの布袋は、(何に使うか、何に使えるかはともかく)、「ただ、持っていたくなるかわいさ」で、買わずにはいられない。
◆小鳩落雁
想定外の買い物でカバンをふくらませて歩いていたら、次に目にとまったのが、鳩のかたちの落雁。
しかも、材料は、赤えんどう豆粉、きな粉、徳島県産の和三盆などから作られていると、ショップのお姉さんに教えてもらう。
(かわいい!)(食べたい!)(わかちあいたい!)(日本茶!)
頭の中も、口の中も、「和」でいっぱいになり、またしてもお持ち帰り。
どちらも、箱のまま売られていたら、足を止めていない。
中身が見えていなかったら、目を近づけて観察することもない。
わかちあいたい人の顔が浮かんで、購入することもない。
いくらよいものでも。
中身は同じでも。
つたわらない。
とどかない。
(みせかたって、おもてなしなんだ)
「おもてなし」をしたい気持ちが、静かに湧いてくる。
◆ちょっとだけ熱い
帰宅して、「微熱山丘」の由来を調べた。
本店と工場があるのは、北回帰線が通る台湾中南部の「南投県」の山岳地帯で、最高級の山岳バナナが生育する土地は、「微熱」(ちょっとだけ熱い)という。
八卦山に続く、鉄分を豊富に含んだ水はけのよい赤土の丘では、太陽の光を浴びて、台湾原種のパイナップルが成長するそうだ。
ほのかに熱をたたえた「赤い土」
(ちょっとだけ熱い)っていいな。
ミチバチが追いかけられるくらいの速度で。
チワワが疲れない程度の速度で。
ちょっとだけ熱い気持ちで。
自転車をこぐ「みなえみ日和」
浜田えみな
3と7のつく日に、連載します。スキップあり(^^)
みなえみ日和のはじまり