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505.【介活】1泊のはずが3週間! ショートステイから父帰還!
(ベッドってすごいな)
(布団って、すごいな)
と思った。
何度洗っても、何度干しても、自分の布団と枕は、からだになじむのだと思う。
ずっと使っている寝具に包み込まれる感覚、天井、壁、襖、箪笥、部屋のたたずまいは、【帰る場所】の感覚を満たすのだと思う。
自分のベッドだとわかり、からだを横たえ、布団に包まれた瞬間、父がこの家にシフトするのがわかった。
(本文より)
◆橋をひとつ渡る
◆プロセスをひとつずつ
◆父帰還
◆家(いのちがいえる場所)
*******************
◆橋をひとつ渡る
手すり工事の「支柱に触れてはいけない3日間」のおかげで、ショートステイに踏みきらざるを得なくなり、絶対に無理だと思えた「自宅以外でのお泊り」が実現できたのは、父の認知症の段階が、中期の終期から末期の初期へと移行したことの顕れだと思う。
自力で、ベッドから起きられなくなり、着替えができなくなり、座り込んだら立てなくなり、手すりがなければ歩けなくなり、トイレのたびに汚すようになり、いま何時かも、どこでどんなふうに誰と暮らしているかも曖昧になり、家の中でも場所がわからなくなり、ついに、「ここはどこや?」と父に訊かれたとき、(もう、家でも施設でも同じかもしれない)と思った。
自宅で介護することの限界を感じたのは、座り込んだ父を起き上がらせてあげられなかったこと。一度や二度ではなく、夫を電話で読んだり、デイサービスの送迎の人に助けてもらったりしたこと。
いつでも誰かが来てくれるとは限らず、(もう、無理かも)って思い始める。
そのタイミングと、ショートステイのタイミングが重なり……。
それは、父にとっても、私にとっても、感情の摩擦や痛みが最小の移行だったと思う。
そして、想像もしなかった、ショートステイの成功。
ものすごく遠いことに感じていて、まったく現実味がなかった施設入所の検討が、いきなり至近距離!
そう思っていた矢先、飛び込んできたのは、父のまさかの「問題行動」
強制送還されなかったのは、何事もなかったわけではなく、当然のことながら帰宅願望の訴えはあるし、落ち着きない様子で30分おきにトイレに行くし、夜中に何度も起きるし、きちんと歩けないのに動き回ったりして、皆さんにお手数とご迷惑をかけている様子なのだけど、それらは、「想定されることで、僕らは仕事ですから」とおっしゃってくださる。その上で、「問題」とされているのが、女性の職員に、不適切な発言を繰り返し、怖がらせていること。
(具体的には、どのようなことをどのくらいの頻度でどのような時にどのような職員にしているのか、防止する方法があるのか、そのほかの困りごとはあるのか、9月からの利用予約はできるのか)
ほかの施設を探す必要があるなら、急に言われても対処できないので、早くはっきりさせてほしいのだけど、まだ利用しはじめて日が浅いので、すぐに利用停止という決断はしていませんし、検討中なので……との回答のまま。
ニュアンス的には、ダメっぽいのだけど、引き延ばされているのは何故なのか。
あらためて、施設担当のBさんに伺おうと思いながら、結局、父が帰ってくる日まで、連絡できていなかった。
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◆プロセスをひとつずつ
まずは、
(いったい、今日、何時に帰ってくるのか!?)
最重要事項だ。
毎日、換気をしている父の居室。
家にいるときは、どれだけ、掃除をしても、換気をしても、そこはかとなく漂ってくる、おしっこ臭さと薬剤のまじったような、独特のおむつの匂い、ひなびて枯れた老人臭のような匂いが、ようやく消えかかっているのに。
戻ってきたら、一瞬でアウトだ。
箪笥をあける。
何枚あっても足りない下の衣類。今は、ぎっしりたたまれて、きれいに並んでいるけれど、一瞬で、洗濯機の中に消えて、箪笥が空になっていく。
一瞬で…… と思いながら、おひさまにあてた、ふかふかの布団を敷きなおし、おねしょシートを念入りにセットする。
(いったい、何時に帰ってくるのか!?)
だいたい、16時~16時30分だと聞いているが、落ち着かず、朝からそわそわ。
3週間ぶりの食事なので、父の好きな、肉じゃがを作る。
3週間も施設にいた父が、どのような感じになって戻ってくるのか、想像もつかない。
ホームステイ先から帰ってきた子どもや、長期出張から帰ってきた夫を出迎えるのとは、まったく違う。
(怖さもある)
どのくらい自立が保たれているのか。トイレの介助の程度はどんなふうなのか。どのくらいの頻度で、父の見守りをしたらいいのかも、想像もつかない。
忙しい時間を外して電話をかけたつもりが、Bさんは電話中とのことで、折り返しの電話がかかってきたのは、2時間ほどあとだった。
まず、確認したのは、帰宅時間と、父の「不適切発言及び行為のその後」について。
帰宅時間は、当初の予定どおりとのこと。不適切発言は、ニュアンスが変わっていた。
父の言動は、【性的なことだけ】だと思っていたのだけど、それに加えて、【自分の力を誇示するような暴力的なこと(「わしは空手をやっていたので、あんたなんか、ぶちのめすことができる」とかなんとか)】を言うらしいのだ。それも、小柄な女性職員に対して。
(わけがわからない! 意味不明!)
(まだ、性的なことを口走るほうが理解できる!)
前後の会話がわからないので、どのような時に、その発言が飛び出すのかがわからないけれど、被介護者が介護者に対して、発言する内容ではないと感じる。
父はレビー小体型とアルツハイマー型の合併なので、幻視もあるし、妄想もあるし、過去と現在が交錯しているので、父の頭の中では、その発言をする理由があるのかもしれないけれど、身体が大きく、顔もいかついので、言われたほうが怖いというのは、よくわかる。
また、足元が覚束なく、あぶなっかしいのに、その認識がなく、言うことを聞かず、勝手気ままに自分で歩こうとするので、転倒のリスクが高く、目が離せず、困ったちゃんだということも。
頻尿は、パーキソン症状では、膀胱が広がりにくくなっているので、すぐにいっぱいになると知り、本人もつらいことがわかったので、(ちんちん切ってしまえ!)とは、もう言わないけれど(以前、夜中の2時ごろから、5分おきくらいにズボンを汚されたので、言いました)、介護者も、つらい。
また、父は異様に早起きなのだけど、施設でも早く起きているようで、この点でも、夜勤の担当者にご迷惑をかけている。
そして、Bさんと話していて、ようやくわかったことは、Bさんは、責任者というか、統括のマネージャーのような立場のかたで、その下に、実際に父のお世話をしてくれている、さまざまな立場と環境の職員が何人もいらして、そのかたたちの声と、利用者家族の思いや状況と、施設の運営(経営)の間にいらっしゃること。
経営面から考えれば、介護認定の区分が高く(要介護4以上)、手がかからない利用者に、入居してもらいたいという気持ちは、とてもわかる。
父は、現在「要介護3」で区分が低く、それなのに手がかかりすぎる。
それはつまり、父が父として、自身の人生を生きる灯を、ともしている証なのだと思う。
***
「あ、ひとつ、言い忘れていたことが……」
と、Bさんが言うので、(え、まだ、何か)と、身構える。
「お父さんですが、最近、夜、下半身はだかになってしまうんです」
(え、今度は、露出!?)
ズボンを脱いで、女性職員にみせたりするなら大変! と思ったけれど、そうではなく、トイレに行くときに、行ってからだと間に合わず、汚してしまうことを心配しての行動なのか、行く前に、ぜんぶ脱いでしまうということらしい。
「裸になって、トイレに行こうとされるのですが、間に合わず、そのまま、そこでもらしてしまうことがあって……」
「えーーーーっ! 布団の上で、ジャーですか?」
「そうなんです」
「それ、困ります! すごく困ります! とんでもなく困ります!」
「ですよね。なので、お伝えしておこうと思って」
「施設のお布団も、汚してしまってるんですよね。すみませーん。ごめんなさいーーー」
「いえ、僕らは仕事なので、対処もできますし、ほかのかたも、そういうかたが多いので。でも、おうちで、そういうことがあると、びっくりされると思うので、お伝えしておかなくてはと思って」
「はあ……。いちおう、おねしょシーツはつけているのですが……。ぜったい、無理ですよね。二重重ねにして、対処します。父がトイレに起きたら、様子見に行きます。おむつなしで、そのまま、布団に、おしっこされたら、とっても困ります!」
「ですよね……」
という、とんでもない爆弾をいただき、干したばかりの、ふかふかのお布団が、おしっこ漬けになる哀れさを思い、どうやってガードしようかと考え、何をやっても、はぎとられたら同じだし、床にシートを敷いたことによって、滑って転んでも危ないし、もう、仕方ないのだ、と思う。
どんなことになるかわからないけれど。
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◆父帰還
16時15分に、インターホンが鳴り、Bさんと父がやってくる。
父は、週2回、おふろにも入れてもらって、さっぱりした感じ。
とっても、機嫌よく、ニコニコしているが、Bさんに、「これ、誰や?」
「娘です!」
「娘さんです!」
私の声とBさんの声が重なる。
父は、ポカンとした感じだけど、5回ほど連呼して、私が娘だと認識してくれた。次に、
「これは、誰の家や?」
というので、
「お父さんの家!」
「○○さん(父の名前)の家ですよ」
と、2人でハモる。
これが、なかなかわかってもらえなかった。
玄関まわりだけでは、自分の家だと認識できないようで、私の家だと思っている。
私の家に、Bさんと遊びに来たと思っているようで、「娘の顔を見たから、わしはもう帰る」と、Bさんを促す始末。
3週間もいたのだから、父にとっては、施設が帰る場所だというのは、よくわかる。
Bさんと一緒に帰ってもらえたら、どんなによいかわからないが、残念ながら、父は今日からこの家にステイ。
あらためて、認知症の高齢者にとっては、生活の環境が変わると、混乱を招くことが実感できた。
毎日の生活習慣、部屋の様子、トイレの場所、何もかもが変わる。
父の場合は、自宅・ショートステイの施設・デイサービスと、すでに環境が3カ所。
さらに、ショートステイ先がもう一つ増えるかもしれないので、4カ所の可能性もある。
それは、望ましくない。
「お父さんの場合は、環境が変わるほうが混乱するので、施設向きなのだと思います」と、Bさんも言ってくださる。
自宅以外で、お泊りできることがわかったし、実際に3週間のショートステイができた。
ショートステイした施設に入所することができればありがたいけれど、順番待ちの人が列をなしていて、まだまだ空きが出そうにない。父の問題行動もどうなるかわからない。
認知症というのは、どのように進行していくのだろうか。
やがては、感情の起伏がなくなり、表情も動かず、動作も少なくなっていくという。
どの機能から損なわれていくのかもわからない。
父の、不適切な発言や行為も、あと数か月もしないうちに、消えていくだろうか?
経験が豊かであろうBさんに尋ねてみたけれど、症例はさまざまだとのこと。
8月までは、週に何日か帰ってきて、週に何日か不在になる。
このオンオフは、お別れのプロセス。イニシエーション。
◆家(いのちがいえる場所)
ケアマネージャーのOさんも、父の様子を見に、さっそくやってきてくれた。
Oさんが来てくださったとき、父は、まだ混乱中で、話し込んでいるOさんと私に向かって、手をあげ、
「ゆっくり、しゃべっていったらいいから。わしはもう、帰る」
と言い張り、実際に立ち去ろうとする。
ここが父の家だと伝えても、頑として聞き入れず、だんだん目が三角につりあがり、不穏時の兆候を見せ始める。
なんとか、なだめすかし、
「ごはんができているよ。ビール(※ノンアルコール)あるよ」の言葉で、ようやく家の中に入る気配になる。
これを逃してはならないと、手を引いて家の中に引き入れ、父の居室まで連れていく。
部屋を見たとたん、【思い出した】ようだ。
「わしは、寝る」と、手すりをつかんでベッドに横になり、くつろいだ感じで目をとじた。
もう「帰る」とは言わなくなった。その様子を見て、Oさんと「大丈夫」と、うなずきあう。
(ベッドってすごいな)
(布団って、すごいな)
と思った。
何度洗っても、何度干しても、自分の布団と枕は、からだになじむのだと思う。
ずっと使っている寝具に包み込まれる感覚、天井、壁、襖、箪笥、部屋のたたずまいは、【帰る場所】の感覚を満たすのだと思う。
自分のベッドだとわかり、からだを横たえ、布団に包まれた瞬間、父がこの家にシフトするのがわかった。
なぜなら、父は、ショートステイなどなかったかのように、以前使っていた椅子と机で、ごはんを食べ、テレビを見て、トイレに行ったから。
まっすぐに、行きたい場所を目指しているから。
冷蔵庫も開けている。
箪笥をあけて、お気に入りの服に着替えていたので、びっくり。
***
父が帰宅してからは、何もできない。
眠っている間は、なんでもできると思うのだけど、何も手につかない感じで、常にスタンバイしている感じ。
ショートステイ先に持っていったカバンをあけて、荷物をあらためた。
使ったものは、きれいに洗濯してたたんであり、一番上に、封筒が乗せられている。
「ショートステイご利用中のお知らせ」という、日々の記録が6枚入っていた。
【日付・食事量・水分量・排便の有無・入浴の有無・体温・血圧・特記事項】
保育園の登園ノートのようで、一気に読む。お心遣いがありがたい。
《気になる初日の記録》
「入館後、職員にたくさん身の上話をしてくれて、すごされていました。午前中入浴も拒否なくして頂けました。午後からはテレビを見たり、少し傾眠もありましたが、穏やかに過ごされていました(U)足の指の間にひび割れ防止のため、ガーゼを巻きました(M)」
(身の上話!!)
(入浴!)
(足の指の間にガーゼ!)
ものすごくかわいい字で書かれているので、若い職員さんだと思われる。それにしても、「身の上話」と称される内容って? 父は何を話したのだろう。田舎の話だろうか。仕事の話だろうか。
父はお風呂が大好きだったのに、いつからか拒否するようになり、デイサービスでも、絶対に入らなかったので、入浴ができたこと、とてもありがたい。
足の指にガーゼを巻くなんて、考えもしなかったので、ありがたすぎて涙が出る。
毎日、数行のコメントが綴られている。
父の様子が浮かぶ。
落ち着かないで過ごしている様子も、どこかに帰ろうとして動き回っている様子も、眠れずにいる様子も、おだやかにニコニコとしている様子も、タオルをたたむなど、お手伝いをしている様子も、七夕の飾りつけをしている様子も、気のあう利用者さんと話をしている様子も、苛立ってご迷惑をかけている様子も、日々、ていねいに書いてくださっているから。
もちろん、電話で伝えてくださったような、記録に書かれていない「困ったちゃん」な出来事が、たくさんあると思う。
それでも、父におだやかな時間、笑顔の時間、心地いい時間、役にたっている時間があることを伝えていただいて、とても嬉しかった。
記録は手描きされたもののコピーで、担当者の名前も書かれてあり、たくさんの職員がいらっしゃることがわかる。
文字から、性別や気質まで、なんとなく浮かび上がってきて、ぬくもりが感じられる。
(感涙。ありがとうございます)
さて。
(父の〈布団ジャー〉の回避に備え、気配ですぐに動けるよう、早めに寝ておこう)
と思ったのに、気づけば明け方。
おそるおそる起き出すと、廊下に、タオルが散らかっていて、水たまりあり。
父は寝ていて、布団が濡れているかどうかは不明。
居室には、濡れているシミは見当たらず。
廊下に水たまりがあるのだから、布団は大丈夫と思われる(→セーフでした!)。
(自分でトイレに行けて偉い!)
(タオルで拭こうとして偉い!)
(場所を覚えていて偉い!)
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浜田えみな
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