タロット The Magician's Story
1907年、33歳のサマセット・モームは『魔術師』という小説を書きました。サマセット・モームは、イギリスの小説家で劇作家です。
◇◇◇◇《魔術師》の登場人物 ◇◇◇◇
アーサー・バードン …セント・ルカ病院の外科医員。堅実で現実的かつ真面目な性格。
ポロエ博士 …元外科医で隠居生活中。オカルト・サイエンスの研究をしている。アーサーの父とは親友で、アーサーのことは生まれた頃から知っている。
マーガレット・ドーンシイ …アーサーの婚約者。パリで絵の勉強をしている。
スージー・ボイド …元女学校の女性教師。遠い親戚の遺産が入ったので、教師を辞めた。元生徒であり親友でもあるマーガレットのパリ行きに同行。
オリヴァ・ハドゥ- …自称・魔術師。
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小説の題名『魔術師』とは、登場人物のひとりオリヴァ・ハドゥ-のことです。そしてこの魔術師・ハドゥ-のモデルとなったのが、実在した魔術師アレイスター・クロウリーでした。しかしモーム本人が後に記しているように、ハドゥ-は「クロウリーよりももっと毒々しい風貌の、もっと気味の悪い、もっと残忍な性格の人物に」仕立てられているようです。
13世紀~18世紀初めの約500年間、中世の異端審問は魔女狩りと称して、カトリック教会の教義に沿わない信仰を迫害し続けました。
しかし19世紀は現代へとつながる多くの魔術師、神秘思想家、心理学者、哲学者が表立って活躍したオカルティストの黄金時代でもありました。19世紀最大の魔術師と呼ばれるエリファス・レヴィ(1810 - 1875)、神智学協会の設立者の1人であるヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキ-(1831 - 1891)。またゲーテ研究者として世間の注目を浴びた人智学協会の創設者ルドルフ・シュタイナー(1861 - 1925)は、教育・芸術・医学・農業等など多方面に渡り非常に多くの講演活動を行いました。
そのようなオカルト全盛期の最中に出版されたこの小説は、いわば怪奇小説・恐怖小説でありました。
その最大の見せ場であり見どころは、モームが描き出す秀逸な人間の外面とその内面の描写に加え、このハドゥ-という得体の知れない人物は《本当の魔術師なのか》、それともただの《詐欺師か狂人》なのか、といったところにあったのではないかと思われます。
物語の冒頭で、アーサーとマーガレット、スージー達はハドゥ-に出会い、ハドゥ-はスージーに請われて、3頭の獅子を3発の銃弾で仕留めた武勇伝を語ります。
アーサーとマーガレットのハドゥ-に対する印象は全く良いものではありませんでしたが、スージーはハドゥ-を面白そうに眺めていました。
さて、あなたはどちら側に近い人間でしょうか。
スージーのように多少なりともオカルト的な物事に興味を惹かれる性質でしょうか。それともアーサーやマーガレットのように実直で堅実、ハドゥーを蔑み、嫌悪を感じ、近寄ることすら考えられ無いというタイプでしょうか。
参考図書:サマセット・モーム全集 第29巻 新潮社 1958 のち ちくま文庫『魔術師』著者 / サマセット・モーム 訳 / 田中西二郎