はなとたま②
はなはかつおぶしの袋を開けたくて、小さい手を一生懸命震わせていた。
顔が真っ赤だ。
まだこのおかっぱ娘には難しいみたいだ。
カラオケスナックの前にある半分腐りかけているベンチに座ってこっちを見ていたこいつの母親らしき奴が、その様子を見て
『はな、ママが開けようかー』と声を掛けたが、このおかっぱには聞こえていないようだ。
全然開きそうにないかつおぶしを見つめたまま、泣きそうだった。
見かねた母親が、ママに貸してみなと手を差し出すと、悔し涙を流しながら母親に手渡していた。
やっと開いた袋を母親がおかっぱに渡すと、泣き面が一瞬でピカピカの笑顔に変わっていた。
『にゃんにゃんおたませー』
とかつおぶしをひとつまみ小さい指で掴むと俺の口に直接入れてきやがった。
『お、おう…』自然と口が開いた俺。
こいつには噛まれるかもしれないという危機管理能力がまだ備わってないようだ。
うまいかつおぶしだった。
妹と弟はその一連の流れを寝たふりを決め込んで見ていたようだ。
俺の目の前におかっぱははらはらとかつおぶしを置くと、同じように妹と弟にもかつおぶしをあげていた。
『ママー!にゃんにゃんおいしいって言ってるよー!!』
と母親に向かっておかっぱは嬉しそうに言っていた。
その様子を優しい眼差して母親は見つめていた。
それからはなは、その日を境に同じような時間に俺たちに会いにくるようになった。
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