はなとたま①
俺の名はたま。
本名は近藤たま三郎。年は多分1才位?だろう。
商店街の奥まった所にある飲み屋さんのビールケース置場で妹と弟と一緒にいるところを拾われた。
雀荘を経営する近藤さんに拾われた俺たちは、夜は雀荘で寝泊まりして、日中は自由に外を出歩いて過ごしている。
お母さんのことは何にも覚えていない。
俺たちを置いて、どこかにいってしまったのだろうか。
俺たちと似たキジシロをよく見かけるなぁ、と酔っぱらいのおっちゃんが喉元を触りながら言っていたのを聞いたけど、それがお母さんなのかはわからない。
苦手な足の裏が痛くなる季節が終わって、なんだかほかほかする季節がやってきた。
俺たちはよく三人で、円を描くように外で昼寝をするようになった。
ここらの飲み屋の人間たちは、俺たちに対して友好的な奴らばかりで、すっかり俺たちは野生の本能を忘れていた。
目を覚ますと、俺たちの真ん中にはじめましての小さい女の子が腰を少し浮かせた体育座りで座っていた。
『にゃんにゃんねんねねんね』とその子は目をキラキラさせながら俺のことをなでてきた。
びっくりしたが、熟睡していたせいですぐに体に力が入らなかった。
俺はすっかり猫とは何かを忘れてしまっていた。
ピンクのベレー帽におかっぱ頭のその子は、
『にゃんにゃんおやちゅあげるね』とかつおぶしの袋を手に握りしめていた。
これがはなとの出会いだった。
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