普遍的価値時代の外交

グローバル化が進展し、普遍的価値が広まる中で、果たして外交は可能なのだろうか。

外交というのは、価値観の異なる文化圏同士がその違いをどのようにすり合わせるのか、ということのために存在するといえるのではないか、と個人的には考えている。価値観が同じならば一つの国で、一つの法体系の中でおさまれば良いのに、そうではないというのは、何らかの価値観の違いがあり、そのために別の法体系にせざるを得ないということだと考えられるからだ。

特に、アメリカ合衆国という国は、旧大陸の価値観に馴染めずに新大陸に渡った人々がその社会の基盤をなし、そしてほとんど文化を共有していたと考えられるようなイギリスに対して戦争まで仕掛けて独立を成し遂げた国であり、その意味で旧大陸と共有するような価値はほとんどないのではないか、と考えられる。皮肉なことに、そんな国が第二次世界大戦の勝利に大きく関わったとされるがゆえに、戦後の国際的な価値観をリードし、その独特な価値観を”普遍的価値”として世界に広げようとしている。それを普遍的価値だ、と言われても、元々の旧大陸諸国は、合わないと言って出ていった人々の価値が普遍的であると言って押し付けられるようなものであり、居心地が良いわけがない。

そんな普遍的価値が広まる時代に、外交とは如何なる形を取るべきなのか。普遍的価値に同化して、その尻馬に乗って、あるいは尖兵となって、普遍的価値の伝道師を務めるのか、はたまたそれを完全に拒絶して孤高を守るのか。関係性というのは、全く同じということも、全く違うということもあり得ず、似ているところ、相容れないところが入り混じっているものだと考えられる。だから、その衝突を避けるためには、価値観のどの部分を共有しており、そしてどの部分が異なっているのかを明らかにし、何か問題が起きたときにいかにその異なった立場を尊重しながら共同の対応が取れるのか、ということを考える必要があるのだろう。

普遍的価値時代の外交の姿は、自由貿易というもののあり方で典型的に現れるといえる。本来的に、自由貿易というのは、関税を下げたり、規制を緩和することで、外国からの輸入のメリットを享受できると判断したときに自発的にそれを行なってその状態に近づいてゆくものであり、自由貿易協議のようなもので、外交で主導して行うようなものではない。わざわざ関税をかけたり、規制をしたりするのには何らかの理由があるはずで、それを、自由貿易という価値観が普遍的で正しいから、という理由で、外国との間で勝手に手打ちをしてその状態を変更する、というのは正当化できるものではない。むしろ、外交は、敵対国に対する禁輸措置であるとか、経済制裁といった、自由貿易に反するようなことをするときに出てくるものだといえよう。

普遍的価値、という言葉が出てきたら、まず自国にとってそれをどのように解釈すべきなのか、という軸を定め、それによって相容れないところを徹底的に議論する、という必要があるのだろう。それでもそれを押し付ける、ということであれば、それはすでに外交ではない。

一方で、受容側としても、国際的な、普遍的価値はこうだから、それに合わせるべき、というような、いわゆる外圧で内政を変更しようという立場で外交を利用しようとするような在り方は、そもそもが全く外交とは呼べる代物ではない。個別の価値判断よりも、誰が決めたかわからないような”普遍的価値”判断が優先されるというのはどう考えても健全ではない。だから、民主主義の理念から言えば、条約の批准などの、国内法を規定するような国際的な約束は、本来的には全て国民投票にかけるべきことなのだと言えよう。国内法ならば問題があれば国内手続きで変えることができるが、国際的なものはそうはいかないからだ。パフォーマンスで外交をし、その国際的に認められた”普遍的価値”で国内の権威を高めるなどという政治的手法は、民主主義的には許されるものではない。

このように、普遍的価値の時代の外交というのは、非常に難しいものになっている。普遍的価値に対してどれだけ独自の解釈を行い、自らの立場を打ち立てることができるか、そして受け入れられないものは受け入れられないと断固として主張できるか、それが重要な外交の基軸となるのだろう。そのためにも、独自の解釈を説明できるだけの、自国文化と歴史に対する深い理解が必要になる。国連中心主義を軸に据える外交は、そのような覚悟が求められるのだろうが、果たしてそれを主導している人々にその自覚はあるのだろうか。むしろ国際的な普遍的価値基準で国内における自らの支配力を高めようとしているのではないだろうか。ますます不透明化を増す国際社会で、外交がパフォーマンスに使われることのないよう注視する必要があるのだろう。

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Emiko Romanov
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