まだここだけ夏が残っていた
今年の夏はとにかく忙しかった。執筆の仕事と並行して義母の介護に関する諸々の手続きが重なり、晴天続きの盛夏だというのに旅行にも日帰りドライブにも行くことができず、私はひたすら家に閉じこもって悶々と作業に明け暮れていた。8月に入ると、義母がいよいよ小規模多機能ホームに通所することとなり、そのための準備や義母のメンタルケアも含めたお世話でやっぱり忙しく、家に閉じこもることが多かった。そうこうしているうちに、お盆へ…。墓や仏壇の掃除をして花を活けて盆参りの準備に奔走し、慌ただしく来客をもてなし、なんとか夏の諸行事を無事に終えた。片付けをしながら「やれやれ…」とホッと気抜けした時、耳を澄ますと外で虫の音が響いている。夜風も涼しくなりすっかり秋風だ。
あぁ夏が終わる。もう終わろうとしている。
今年の夏は自分を置いてけぼりにしてきた。自分を楽しませることは何もできないまま終わってしまった夏だけど、でも、時として人生にはそういう時期がある。そう自分に言い聞かせる。
8月の最終週、慌ただしさの中にもようやく余裕が出てきて、私は久しぶりに散歩に出かけるようになった。陽射しはかなり強いけど、吹いてくる風や空気感はもう秋。
季節の移ろいを肌で感じつつ、いつもの散歩道を歩いていたら、鮮やかに咲く百日紅を見つけた。
夏を掴みそこねてしまった私のために、夏の風情を保ったまま待っていてくれたのかしら。
もう全て終わってしまったと思っていたのに…。
あぁここだけまだ夏が残っていた。
ありがとうサルスベリ君。君と君の背景にある青い空を見上げていると、まだギリギリ夏の気分を味わうことができる。
マゼンタピンクの花を華やかに咲かせた君は、天に向かって拳を突き上げて吠えるようだった。
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