電子書籍の導入
悩んでいる。
最近Kindle Unlimitedを登録した。Kindleの電子書籍の一部を自由に無料で読むことができる、いわば「本のサブスク」のようなものだ。
月額980円。本を一冊買うよりも安い。あっという間にもとが取れてしまうシステムだ。
今までも何度か登録しようか迷っていたのだが、「でも本はやっぱり紙だよなぁ」なんて思って、なかなか踏み出せずにいた。そのくせ青空文庫のアプリはやたら愛用していて、人間とはほとほと矛盾を積み重ねて生きるものである。
Kindleのアプリも使っていなかったわけではない。Primeで無料で読めるものや、書道の法帖で手元に常にほしいものなどは購入して使っていた。「紙にこだわる」というのは私の中にある老害が顔を出していただけで、便利であればそれが一番いいと思っていた。
あるとき参考書を数冊買う必要があり、Amazonを開くと、本体よりもKindleの方が半額近く安いことに気がついた。
参考書は重くて持ち歩きが不便だ。私はいつも参考書を分解し、必要な部分だけを持ち歩いていたのであるが、これがなかなか手間である。それならばいっそのことスマホに入っている方が究極に軽いではないかと合点し、Kindleで購入することにした。
ところで私は思うのであるが、Kindleで購入するとどうも「自分のものになった」感じがしない。スマホがないと読めない。電波がないと読めない。電池がないと読めない。もしもKindleやAmazon、日本のネット環境に何かが会った場合、読むことはできない。これは果たして「私のもの」だろうか?
私は「読む権利を買っている」だけに思う。買ったはずの本はKindleの本棚には並ぶけれど、私の部屋の本棚には並ばない。手には取れない。人に貸せない。
紙の本はやはり偉大なのである。紙であるからこそ、私の手元にずっと残り続けるのだ。
しかしながら、全ての本が紙である必要はない。別に手元にずっと置いて置く必要のない本もある。言い方は悪いが、「ただの通り道」の本。
ほとんどの本がその本のように思う。考えてみれば私は昔から図書館派で、図書館で借りる本は当たり前だが私の本ではない。図書館で借りて大好きになって、一生そばに置いておきたい本はその都度買った。自分にとって重要な本に出会える機会はそうそうあるものではない。
話は戻るが、Kindleで参考書を買ったときに私は思った。「これって読む権利を買っているだけなのだから、図書館と同じなのではないか」と。違うのは有料か無料かだけで、構造はほぼ同じに思えたのだ。
それならいっそのこと、Kindle Unlimitedに登録したほうが、借りたい放題でいいのでは? と思い立ち、私は紙へのこだわりを一瞬で捨て、すぐに登録した。
そして今、悩んでいる。
スマホで読むには画面が小さいのだ。そしてたぶん、このまま毎日スマホで読書をしていたら目が悪くなりそうな気がする。
スマホに本を入れられるというメリットは大きい。荷物がとにかく少なくて済む。出かけ先で他の本が読みたくなったらすぐに本棚から選んで変えることができる。
しかしとにかく目が疲れる。これは最たるデメリットである。
もうこれは読書専用のタブレット、Kindle Paperwhiteを買うしかない。
そう思い立って検索を始めた瞬間、私は大きな悩みに襲われた。
このタブレットを買ったら、私は完全に電子書籍へ移行してしまうのではないか?
これは壮大な悩みである。
本のメリットといえば、必要なものは大きく、そして目に優しく読めること。デメリットは持ち歩きするには重いこと。そして電子書籍のメリットは持ち歩きが軽く、便利なこと。デメリットは画面が小さく目が疲れること。
この電子書籍のデメリットを全て解決してしまうのがKindlePaperwhiteなのだ。
いやしかし、KindlePaperwhiteは持ち歩かなくてはいけない。スマホだけ持っている今とは仕様が変わってくる。本を一冊持ち歩くのと同じだ。それならばいっそ本を持ち歩けばいいのではないか。
ただ本を持ち歩くとすると、その本をまずは手に入れなければならなくなる。今までは図書館まで徒歩5分もかからなかったが、引っ越してからは車で10分の距離になってしまった。通えないことはないが、出不精の私には遠すぎる。
本の豊富さについては明らかに図書館の方が勝っている。これは人の好みにもよると思うが、私は文芸や学術書が好きだ。その豊かさはKindleと図書館では比べ物にならない。
ではKindleと図書館を共存させて利用するのはどうか、というと、2万円近いKindlePaperwhiteを購入するからには使い倒したいというケチな貧乏心がウズウズしてしまう。共存程度であればこのままスマホで読書を継続する方がお財布に優しい。
ああ、なんと難しい問題であろう。とてつもなく悩んでいる。
この悩みが解決しない理由の最たる1つが、私の周囲に誰一人、KindlePaperwhiteを利用して読書をしている人がいないことである。数ヶ月に一度くらい電車で見かけることはあるが、使用している人をほとんど見かけない。見かけないということはそれほど使い勝手がいいものではないような気がしてくるが、そもそも読書をしている人を見かけることも少ないため、分母の数が少なすぎてさっぱりわからない。
周囲で使っている人がいれば、使い勝手や画面の感じなどを見せてもらうことができるのに、誰一人いない。Amazonのレビュー欄では心もとない。実際に手に持ったときの重さも知りたい。試しも何もなく買うには、2万円は高すぎるのだ。
一向に結論は出ない。何度悩んでも、実物を手にとって、使ってみない限りはどうしようもない。使用している人に使用感を聞いてみたい。むしろ一週間くらいお試し期間が欲しい。
時代と共にあらゆることの選択肢が増えつつある。その度に選択を迫られ、失敗するのが怖くて、私はつい古い方法を選んでしまう。
今まで紙を選び続けてきた私もついに一歩新たな選択肢を選ぶべきときが来たのだろうか。
でもやっぱり、失敗はしたくない。もうしばらく、悩んでいることにしようと思う。